第16話 王都へのお誘い
「なるほどな、じゃあリゼは緑の魔力とクレル殿の加護を持っているわけか」
私とクレルの差が気になるが、森に住むただの娘と精霊だ。致し方ない甘んじて受け入れよう
「あなたからも精霊の魔力を少し感じるわ」
クレルがだいぶ薄まってはいるようだけどと言うと、クラウスさんは頷いた。数代前の先祖に精霊から加護を受けた人がいたらしい。
「今では精霊を見るくらいの力しかないが誇りに思っている 。が、リゼが羨ましいな」
そうであろう、そうであろう。この力で私はクレルを精一杯愛でるのだ。
「ねぇクレルはみんなには見えないの?」
「そうね、一定の魔力持ちか加護持ちには見えるけどね。たまに捕まえようとする人間がいるのよ。やめて欲しいわ」
クレルはため息をつきながらクラウスを見る。
「私たちは自ら精霊や霊獣などに進んで手を出す事はしない。やむ得ない場合のみ保護をしている。が、確かにそのような人間は一定数存在する。理解に苦しむがな」
ところで、と言葉を区切ると「腹が減ったな」とテーブルに置いていた野菜を見ながらクラウスさんが言った。
まさか食べて帰るつもりなんじゃ……。
宮廷魔術師さまに出せる料理はうちにはない。今日は干し肉とクリームスープという塩味を求めたメニューなのだ。
しかしクラウスさんは帰る様子もなくクレルは「ほんとね〜私もお腹すいたわ。リゼの料理は美味しいのよ」と話している。さっきまでの警戒心を今こそ発揮してほしい。しかし願いはあっさり打ち砕かれた。
「そうか! それは楽しみだ。リゼ今日のメニューはなんだ?」
「……干し肉と野菜のクリームスープにさくらんぼのシロップ漬けです」
ほう、シロップ漬けもあるのかと少し口元が緩んだクラウスさんは甘党なのだろう。諦めて料理を作る事にする。
「信じられないくらい美味かった。魔力がこもった野菜とは、普段食べているものとこんなにも味が違うのか」
「普通の魔力を込めても変わらないと思うわ。何かしらの作用は出るかもしれないけど。緑の魔力だからこそね」
「何かしらの作用か……。検証させる価値はあるな」
クラウスさんは気になる事はどんどん聞くタイプのようで、教える事が嫌いでないクレルとずっと話をしている。意外と気が合うのかもしれない。そんな事を考えながら2人を見ているとクラウスさんが「2人とも王都にこないか?」と言った。
一年前に聞いたセリフだな……。
「王都にですか?」
聞き直してみるが間違いないようだ。
私はここから出るつもりはないし、何よりジェフさんに家の管理も任されているのだ。王都にはいけない。一緒に夕飯まで食べおいてアレだが、今日会った人に急に誘われて行くほど近くでもないし私もバカではない。
一体どういうつもりなのか……。大体、本当に宮廷魔術師なのかだんだん不安になってきた。
「ぶはっ……!」
私が真剣に悩んでいると、クラウスさんが急に吹き出した。肩を震わせながら笑うのを我慢しているようだが全く我慢できていない。
「すまない。そんなに警戒しなくて大丈夫だ」
声を震わせながら言われても益々怪しさが増すばかりで大丈夫でもなんでもない。
クラウスさんは私の頭に手をポンっとおいた。
「姉の娘が不満そうにしている時の顔にそっくりだ」
3歳だそうだ……。そうですか……。
そのやり取りを呆れたように見ていたクレルが「それでなぜ王都に?」と聞いた。
「この森を見つけて調査に来たといったが、上位貴族ほど優秀な魔術師を飼っている事が多い。見つかるのは時間の問題だ。緑の魔力と精霊の加護を持つ君、そして加護を与えた精霊。間違いなく無理やりにでも連れていくだろう。そうなる前に我々が保護したい」
真剣に話すクラウスさんは嘘は言ってないようだけれど森にいれば安全なんじゃないかな……。
そんな事を考えていると、クラウスさんが物騒な事をサラリと口にした。
「この森は安全だが外に出た瞬間捕まるぞ」
「王都なら安全だと言う理由が知りたいわ、ここから出る以上同じではないの?」
クレルが尋ねるとクラウスさんは「勿論必ず安全と言う場所はないが」と前置きし
「陛下から許可をもらい、2人を国と私宮廷魔術師長が保護していると貴族に周知させたい。さっきも言ったが上位貴族ほど優秀な魔術師を使ってくる。それに鼻も利く。2人を守る抑止力がほしい。国の庇護者を奪う行為がどう言う事なのか貴族なら嫌と言うほど知っているだろうからな。そのために王都に来てほしいんだ」
ん? つまりどういう事??
王都には私たちが国に守られていると貴族に知らせる為に行くってこと?
それで身の安全が約束されるのなら問題はない。むしろ有難い話な気がする。
「では王都に住むわけでは……?」
「なんだ王都に住んでくれるのか?」
クラウスさんはニヤリと笑って私をみた。
信じられない! この人わざと紛らわしい言い方したのね!!!
ぶすっとした私を無視して、クラウスさんはクレルに「私たち人間の我儘ですがどうか王都まで御足労頂きたい」と言っていた。
「面倒だけどリゼの為に行くわ。人間には人間の抑止力が必要なのは確かだし。あなたが私たちに害をなす事もなさそうだし」
クラウスさんはお礼を言うと嬉しそうにクレルを見ている。イケメンの笑顔は破壊力が強いが、私にとってクラウスさんはただの意地悪な人だ。
「私の一族は幼い頃から精霊について学ぶんだ。加護持ちである事を誇りに思い精霊を敬愛している。害を加える事などありえない」
そう言ってクレルの前にひざまずき「クラウス・オルドリッジの名において光の守護を」と言うと、金色に輝く光の中から小さなブレスレットが現れた。
「あなた光の魔術師なのね」とクレルがつぶやいた。
「お手を借りても?」とクラウスが聞くとクレルはそっと右手を出す。まるでお姫様に触れる騎士のようにクラウスがブレスレットを付ける。
「最近は精霊の力を抑える魔術も研究されています。ブレスレットがあなたの守りになりますよう」
クラウスは私の方に振り向くと「これは君の分だ、肌身離さないように。根回しも必要なので2日後に迎えに来る、それまでは十分に気をつけてくれ」と言ってローブを羽織ると金色の光とともに消えていった。
もちろんブレスレットは自分でつけた。
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