第15話 王都からの訪問者
お風呂から出たクレルに夕飯のリクエストを聞くが今日もパンケーキだった。
「パンケーキは朝も食べたからダメです。精霊だからって偏食はいけません」
そんなぁ〜と膝をついて落ち込んでるが、こればっかりは譲れない。何故なら私がもう飽きたのだ。いくら美味しくても毎日は食べれない。甘い物の後には塩味が食べたくなる。
干し肉と野菜たっぷりのクリームスープにしよう。クレルを見るとまだ落ち込んでる。デザートにさくらんぼのシロップ漬けを出してあげようかな。最近さくらんぼばっかりだからなぁ、もう少し色んな種類の果物を作りたいな。
明日は王都のお店に商品を送る日だ。クロードさんは荷台屋さんに任せて大丈夫だと言ってくれたが初日だし私もギルドに行ってみよう。その後、市場に行って果物の苗探しをしよう。
「クレル〜畑に行くけどどうする?」
「一緒に行くわ」
私が畑に行くとクレルは大体ついて来て精霊の花の下で涼みながらおしゃべりをする。じんわり暑いけれどたまに吹く風が気持ちいい。
納品分は午前中にまとめたので、のんびりとクリームスープに入れる野菜を収穫する。じゃがいも・玉ねぎ・にんじん・そら豆・きのこ、これだけあれば良いかな。クレルはそら豆が苦手なのですり潰していれよう。
水やりには少し早いけれど、明日街に行くから今日は早めに終わらせよう。
右手に魔力を込めて畑に水を降らせる。バサっと音がして振り向くと銀色の髪に黒いローブを纏ったとんでもなく整った顔の男の人が立っていた。
「魔術師がいるとは驚きだな……いやまさか精霊魔法か? もしかして君がこの聖域を作ったのか?」
び、びっくりした……まさか迷子?ではないよね。魔術や精霊とか言ってたし……うわぁどうしよう。
スプレンドーレさんが悪意ある人はこの森には入れないって言ってたし悪い人じゃないって事だよね……。聞いてみるしかないよね。
「あの、どちらさまでしょうか?」
黒ローブのイケメンは「あぁすまない」と謝ると森に来た理由を話しはじめた。
「宮廷魔術師のクラウスだ。この森の調査に来たのだ。そんなに怯えなくても大丈夫だ……が、怪しいものではないと証明する術はないな」
「宮廷魔術師さまですか!?」
えー! どうしよう憧れの存在だ。
一気に目をキラキラさせる私を見て 「信じてくれてなによりだが、もう少し人を疑った方がいいぞ」 とクラウスさんが言った。精霊の花に隠れていたクレルがふよふよと飛んできて両手を腕組みしたままクラウスさんの前に出た。
「一体宮廷魔術師が何の用なの? 」
あれクレル機嫌悪いのかな? それに出てきてよかったの?? クレルを見ると目が合った。怒ってるよね…?
「あのね! いくら森ここに入れた人だからって気を許し過ぎよ!! 」
クレルは心配で出てきちゃったじゃないの! と怒っている。おぉう、ごめんなさい。原因は私だった。
「それで? ご用件は? 」
クレルは相変わらずの塩対応だが、クラウスさんは気にする様子もなくむしろ嬉しそうだ。
「まさか精霊に会えるとは。お会い出来て光栄です。宮廷魔術師長クラウスと申します」
何とクラウスさんは魔術師長だった。胸に手を当てて精霊クレルに挨拶をする姿はまるで絵本の1ページのようだ。
その姿にクレルの警戒心も少し和らいだのか、私の方を向くとスーっと飛んできて肩に座った。
クラウスさんはその様子に少し驚いたようだったが、では説明を……とこの森にきた理由を話しだした。
「聖域ですか?」
「あぁ、報告が上がって調査に来たわけだ。だが聖域とは少し違うようだな。魔力の性質は同じようだが聖域ならこんなに簡単に入れはしない」
クラウスさんは一人で納得しているが私にはさっぱり分からない。肩に乗っているクレルにこっそり聞くと
「魔術師が結界を聖域と間違えたんでしょ。精霊の里に満ちている魔力と同じだから。聖域は私たちが暮らす土地なのよ。人間や魔獣から身を隠すために作ったの。外から干渉されずにゆっくり暮らしたいもの。精霊や妖精が好む草花が浄化の力を持ってたりするから魔獣が近寄れなくて澄んだ土地になるのよ、それで人間から聖域って呼ばれてるの。ただこんなに早くここが見つかるとは思わなかったわ」
「うちは優秀なヤツらが多いからな。しかし聖域にそんな理由があったとは……。となると、あなたがこの結界を?」
クラウスさんにはクレルしか見えていないようだ。私はクレルの椅子なのだろう。別にいじけている訳ではない、2人の会話についていけず話に入れない私が悪いのだ。クラウスさんの質問に少し誇らしげに「ふふん、私のお母様よ!」と答えるクレルは可愛い。
「精霊の母だと? うそだろ……では大精霊がこの結界を張ったのか」
とうとうクラウスさんはクレルもほっぽり出し一人の世界に入って行った。ひとしきり考えた後私を見て「あなたは一体なにものなんだ?」と聞いた。
ただの椅子ですと答えそうになったが、ぐっと我慢した。私は大人なのだ。話も長くなりそうだったので、家の中へ案内し紅茶をだした。大人だから。
クレルとこの森に住んでいると答えると、詳しく聞かせてほしいと言われたのでクレルの了承をもらい村を出てからの事を全て話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます