第14話 報告書

 重厚な扉に、一見質素で機能性を重視しているように見えるが一級品の家具に囲まれた部屋で大量の書類に囲まれた男が眉間のシワを伸ばすように指でほぐしながらため息をついている。


「なんだこの書類の量は」


 側にいた男が紅茶を出しながら答える。


「最近の魔物の異常発生と作物不足による農村部からの嘆願書にそれに関連する報告書です。なぜか全てうちに回ってきているようですが」


「他部署の上のヤツらは何をやってるんだ。なんで魔術部に農村部から嘆願書がくるんだ。少しは足りない頭で考えてから出せと言ってくれ」


「かねがね同意ですが不敬罪で捕まりますのでそれ以上はおやめください、クラウス様」


「いっそしばらく牢に入るのも悪くないな、お前はどうする? アルヴィン」


 面白そうに笑うクラウスにアルヴィンは執務を続けるように促した。


「あなたが牢に入ったら誰がこの書類を片付けるんです?国が傾きますよ。さっさと終わらせてください」


 つまらんな……と言いながらも仕事を始める主を見ながら、こちらが本題なんですがと一枚の報告書をクラウスに渡す。


「なんだこれは? 西の方に聖域が出来ただと?」


「そのように書いてありますね」


 バリーからの報告書か……聖域が急に出来るなんて聞いた事ないな。疲れすぎじゃないかうちの部署は、そろそろ休みが必要だな……と呟きながら真剣な目で書類に目を通す。銀色の髪がさらりと肩を流れニヤリと笑った。


「調査に行ってくる、魔獣の大量発生の件は帰ってからまとめる。それ以外は適当に理由をつけて返しておいてくれ、大体それは管轄違いだ」


 夕方までには帰ると言うと黒のローブを手に取って一瞬で消えた。


「こうなると思ってましたよ、全く。しかしこの時期に聖域とは何かあるんでしょうか」


 アルヴィンは書類をまとめると、各部署に問答無用で嘆願書を返していった。





 森では相変わらず、畑の世話をしながらリゼがポーション作りの練習をしていた。


「出来た!」


「まだ作ってたの?」


 昼寝を終えたクレルがふわふわと飛んできた。


「えっ! 何このポーションの量は。お店でも開くの?」


 洗濯桶いっぱいに入っているポーションを見てクレルが呆れている。野菜の時と同じで不思議な現象が楽しくて作り過ぎてしまった。

 容器も無いしどうしようかなぁ、野菜に撒いたらどうかな…あ、そうだ!


「ねぇポーションを沸かしてお風呂にする?」


 こないだも気持ちよさそうに入ってたしお風呂は好きなはずだ。


「すっごい贅沢なお風呂ね…」


 反対ではないようなので早速ポーションを火にかけ深めのお皿を用意する。


「ねぇ、リゼは入らないの?」


「入ってみたいけど私が入れる大きさの桶がないんだよね」

 

 王都には入浴施設があるらしいので1度は行ってみたい。


「作ったらどうかしら?」


 作るとな……お風呂の作り方は流石に分からない。


「流石にお風呂は作れないよ……もしかしてクレル作れるの?」


 期待を込めてクレルを見るとあっさり私には出来ないわと言った。何なんだ、小悪魔なの?


「緑の魔力って、植物だけじゃなく土にも作用するからリゼが入れる位の大きさの穴を開けたらどうかと思ったんだけど」


 つまり土を自由に動かせるってこと? でも土のお風呂ってドロドロしそうだしなぁ、王都のお風呂ってどんなのだろう。見てみたいな。水を引く必要もないし作れるようなら作りたい。


 諦めてクレルに準備出来た事を伝えるとすぐにポーションの湯に入っていった。


「すごーい、お肌すべすべになるわ。はぁ〜幸せ」


 とりあえず残ったポーションは私が使った。すべすべになりますように……。



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