第11話 王都の商人クロード
目を閉じて心を静める。近くで聞こえていた小鳥たちの声も何処か別の場所の出来事のように思える……体を流れる魔力を感じながら神経を集中させる。
「ふぅーーー」
クレルに力の使い方を教わった日から、毎日体の魔力を感じる練習をするように言われている。
さて、次は畑とお花に水をあげないと。魔力の使い方の練習になるからと毎日の水やりは力を使うことにしているのだ。野菜や花たちもあれ以上は大きくなったり増えたりしないので、成長の限界はあるのかもしれない。
天気も良いし畑は今日も豊作だ。
「水よ、お願いね」
言葉にした方がイメージしやすいのか上手くいく事が多いのでそうしている。段々と板についてきたかも。ふっふっふ、と笑いながら力を使っていく。
クレルが聞いたら苦笑いしそうなセリフを言いながら水やりを終えると街に行く支度をする。
今日は薄い黄色のワンピースにしよう。祖母のペンダントは毎日付けている。魔法具ではなかったけど変わらず大切なものだ。
カゴにサクランボとジャムを入れ上から白い布をかけて街へと向かう。
お店につくとバンさんのお義兄さんはすでに来ていた。
「すいません、お待たせしてしまって」
「いや、時間通りだ。お義兄さんが早く来すぎただけだ」
バンさんの隣にいる人を見る。30歳くらいの銀色の眼鏡をかけた人だ。目が合うとにっこり笑って
「はじめましてリゼさん。お会い出来て光栄です。僕は王都にあるハーバリー商会のクロードです。今日は突然呼び出してすまなかったね」
「いえ、こちらにこそサクランボを気に入っていただいてありがとうございます。あの、サクランボとジャムです。良かったらどうぞ」
慌てて挨拶を返して用意していたサクランボとジャムを2人に渡す。クロードさんはすぐにサクランボを口に入れると、「やはり美味しい!」と言って次にジャムを手に取った。
「これはリゼさんの手作りなのかい?」
「はい、栽培しているサクランボとオレンジのジャムです」
バンさんにスプーンを借りてジャムを1口食べたクロードさんはわずかに目を開くと
「ぜひこのジャムもお店に置かせてほしい。甘過ぎず程よい酸味もあって上品な味だ、食感もいい。何よりサクランボとオレンジの素材もいいのだろう」
ジャムも褒められて嬉しい! それはもう大歓迎です! 沢山ありますから。返事をしようとすると
横からバンさんが「うちにも頼む」と言ってきた。どうやらクロードさんがあまりに褒めるのでバンさんも食べてみたようだ。バンさん勿論オッケーですよ!
「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします」
「では詳しい契約をしよう」
その後クロードさんと契約を交わす。さすが王都のお店だけあって一つ一つの取引単価が高くて驚いた。
バンさんが「うちはこんなに出せねぇぞ……」とつぶやいていた。
最終的にサクランボ500gで2銀貨・ジャム1瓶200gで1銀貨に決まった。
「本当にこの値段で大丈夫ですか?」
正直高過ぎて売れない気がする…バンさんも少し顔色が悪い
「正当な値段ですよ。利益も十分に見込んでますし。ただお願いした通り卸してもらうのは朝摘みしたものに限りますし、品質も味もこの水準を守っていただきたい。ジャムについてもこのままの味でお願いします。問題なければサインをこちらにお願いしますね」
私としては何も問題ない。有難い位の話だ。言われた場所にサインをして契約書をクロードさんに渡す。あ、そうだ配送はどうするんだろ
「クロードさん、商品はどのようにして送ればいいですか?」
「リゼさん商業ギルドに入っていますか?」
「いいえ」
「では先ずはギルドに登録してもらう事になります。うちとの取り引きになると店舗を持たなくても取引の金額が大きくなるため必要ですね。手数料などは取られますが色々と配達など融通が利くので。その後はこちらで手続きするので、リゼさんは商品をギルドの受付に持って行ってもらえれば大丈夫です」
「荷台屋さんにギルドに運んでもらっても大丈夫ですか? 」
「勿論です、配送伝票を用意するので商品と一緒に渡すよう荷台屋にお願いしてください」
「配送伝票があればどこでも送れるんですか? 」
「えぇ、そうですね。何処か送りたいところでも?」
「はい、王都にいる家族に……」
家族って言っていいよね……少し照れながら話す私を見たクロードさんは、ジャンさんの家用の配送伝票も作ってくれると言ってくれた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ大した事ありませんよ。ではこれからよろしくお願いします」
早速大量注文をするとクロードさんは帰っていった。
疲れた……緊張から解放されて一息つくとバンさんが紅茶を出してくれた。
「お疲れさん、ひと休みしていくといい」
その後、クロードさんと契約した金額の半分以下でバンさんと契約した。バンさんには良くしてもらっているし、これでも十分な値段だ。
帰りには沢山のパンをお土産にもらい「これからもよろしくな! 義兄さんには値段は秘密だぞ」と何度も言うバンさんにパンのお礼を言い店を出ると、商業ギルドで販売者の登録をしてから森へ帰った。
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