第10話 クレルの帰郷

 豊作は嬉しい、もちろん嬉しい。だけど1人じゃどうしようもない量だ。もう一度畑を見る。

 トマト・ズッキーニ・かぼちゃ・人参・大根・トウモロコシ・じゃがいもにさつまいも。花と同じで季節なんてまるで関係なくそれぞれの小さなスペースに我こそは!と実っている。果物はサクランボにオレンジの木が1本。ただその木にも勿論たくさんの実がついている。


「どうしようかなぁ、小屋はもういっぱいだし……」


 一人言を言いながら精霊の花の方を見ると見たことも無い花や草がキラキラと茂っていた。


「クレル……あれなんだろう、花と草が光ってるんだけど」


 クレルは私の肩から花の方を覗くと、立ち上がってぴょんぴょんジャンプし始めた。


「精霊の花と薬草よ! 緑の魔力に誘われて咲いたんだわ!! 私もうここに住むわ。リゼの料理は美味しいし、精霊の花も沢山咲いてるし、緑の魔力が溢れてて心地いいしこれ以上の場所はないわ」


「本当に!? 大歓迎だよ!!」


 クレルはいつか居なくなるって思ってたから凄く嬉しい!

 1人で暮らすのはやっぱり寂しい。クレルに頬ずりしようとすると逃げられた……解せぬ。


「でもその前にお母様に会ってくるわ、きっと心配してると思うから」


 そうだった、クレルはケガをして帰れなくなってたんだった。


「そうだね、それがいいよ。あ、ジャムをお土産に持って帰る? 沢山あるから」


「ありがとう! きっとお母様も喜ぶわ、それにお姉様たちも甘い物が大好きだから」


「クレルって姉妹がいるの? どれくらいあれば足りるかな?」


「そうねぇ、100くらいかしら? 里にいる多くの精霊はお母様の魔力から生まれたの。みんなの事はお姉様って呼んでいるの。私が1番若い精霊だから」


 おぉ、そうなのか。なんてファンタジーなんだ。って事はたくさん用意しないとね。


「クレル、いつ帰る? あと2日待ってくれない? そしたらみんなの分のお土産作れるから」


 クレルがあっさり了承してくれたので、早速お土産作りだ! 先ずはサクランボとオレンジのジャム作りからはじめよう。


 先ずはさくらんぼを半分に切って種を取り出して、種は後で使うから小さな袋に入れてっと。

 沢山作りたいから、大きくて深めのお皿にさくらんぼを入れて砂糖を振りかけたら常温でしばらく置く。


 水分が出てきたら鍋に入れて潰しながら弱火で煮込んで、袋に入れたままの種を一緒に煮込んでとろみが出たら袋を取り出してもう少し煮詰める。


「ねぇ、どうして取った種を入れるの?」


「種を入れて温めたらトロミがでるんだよ」


「へーそうなんだ」


 めずらしそうに鍋の周りを飛び回るクレルに 「熱いから気をつけてね」 と言って小皿にジャムをすくってテーブルに置く。

 ……食べにくそうだなぁ。ふぅふぅと冷ましながらテーブルの上で食べる姿を見ながらクレルにテーブルとイスを作ってあげようと決めた。


「リゼのジャムはやっぱり美味しいわ! 」


「良かった、後はレモンを絞ってもう少し煮詰めたら完成よ」


 さくらんぼとオレンジのジャムを作ったら、薬草を使ったクッキーとさつまいものパウンドケーキを作る。その間に野菜も収獲し2日目の朝、お土産の準備が整った。


「頑張って作ったけど、足りるかな……」


 ジャムやクッキーを見ながら野菜も袋に詰める。クレルが野菜も料理上手なお姉さん達が喜ぶと言ったので大量に持たせる予定だ。持てるのか心配だったけど、力を使って戻るからどれだけでも大丈夫らしい。


「リゼ〜そろそろ行くね!  沢山ありがとう、きっと皆んな喜ぶわ。2〜3日で帰ってくるからね〜」


 ふわりと浮くとにっこり笑ってクレルは帰って行った。沢山あったお土産に野菜の山も一緒に消えて、優しい花の香りが少しした。


「行ってらっしゃい、クレル」


 クレルが帰ってしんみりしてたけど、明日はバンさんの義理のお兄さんに会う日だ。準備しなきゃ。


 さくらんぼをお店に出したいって言ってたから、さくらんぼは持って行くとして……ジャムも持っていこう。

 大量の瓶に入ったジャムを横目に見ながらバンさんの分も用意する。こないだ渡すの忘れちゃったからね。

 ミルキーにも持って行こうかなぁ、すごく喜んでくれてたし、んーー流石にまだ早いかな。せっかく気に入ってくれたのに、食べ過ぎて飽きちゃったらやだもんね。ミルキーに渡すのはまたの機会にしよう。


 クレルと出会ってまだ2日しか一緒に過ごしてないのに、一人のご飯は味気なかった。


「早く帰って来ないかなぁ」



 ************


 


 澄んだ湖がキラキラと太陽の光を受けて輝いている。周りには小さな花が色とりどりと咲き誇り、それを囲むように若々しい緑の葉を付けた木々が力強く立っている。


 木の下には精霊達が花を摘む姿が見える。木の葉の隙間から射し込む光が一層幻想的にその姿を引き立てている。


「みんな〜ただいまーー!! 」


 急にかけられた懐かしいこえに精霊たちは一斉に振り返る。


「クレル! 」


「今まで一体どこにいたの? みんな心配してたのよ! 」


 抱き合って再会を喜んでいると村の中心にそびえ立つ聖樹から一際輝く光を纏った精霊が現れた。


「クレルおかえりなさい」


「お母様! ごめんなさい心配かけてしまって。ケガをして帰れなくなってしまってたの」


「無事で良かったわ」


 クレルは久しぶりに母親に抱きしめられ涙を流した。今までの話をみんなにしなきゃ! 先ずはリゼの話からね!!



 リゼのお土産を受けとった精霊たちは、そんな人間がいるなんて! と興奮しみんなでリゼの元に遊び行く事を決めた。お手製ジャムとパウンドケーキと野菜で知らぬ間に精霊の心をガッシリ掴んだリゼだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る