第9話 パンケーキと精霊の花

さくらんぼと自家製ジャムを乗せたのと蜂蜜たっぷりの2種類のパンケーキはお気に召してくれた。


「おいしい〜!! 幸せだわー、もう私リゼから離れられそうにないわ」


「大げさだなー、まだまだあるから沢山食べてね」


 クレルのパンケーキは10センチぐらいの大きさにしたからパンケーキの素はまだまだ残っている。

 クレルのお代わり分を2枚焼いたあと、自分の分も作ってパンケーキをテーブルに置いてから紅茶を用意する。


「クレル、紅茶ここに置くね。熱いから気をつけて飲んでね」


 もぐもぐと口いっぱいに入ったパンケーキで何と言っているか分からないが、頷いているから大丈夫だろう。

 さー私も食べよう! パンケーキと程よく甘いジャムの相性が何とも言えず美味しい


 2人ともお腹いっぱいになったところでクレルが


「今まで食べた中で一番美味しかったわ! 久しぶりの食事でだいぶ魔力も潤ったし」


「食べ物で魔力が潤うの?」


「緑の魔力は癒しの力もあるの。リゼの料理は美味しいし魔力も補充出来るし私たち精霊にはたまらないわ!」


 詳しく聞くと、どうやら私の作った作物や料理には緑の魔力が入るらしい。精霊は大地や大気から魔力を貰えるけれど口から入る料理の方がより魔力を補充できるようで、今のクレルは元気いっぱいだ。


「リゼ! 庭に花を見に行こう!!」


 やっぱり花が好きなんだね。急いで行くほど好きみたいだし沢山植えてて良かった。羽をパタパタさせながら言うクレルにこっそり悶えながら帽子をかぶりエプロンを付けて外に向かう。



 ドアを開けるとそこには見た事のないキラキラと光る真っ白な花が咲いていた。ここは昨日本屋で貰った種を植えた場所だ。


「これって昨日植えた種の花?」


 尋ねるとクレルは懐かしそうな顔をして


「そうよ、魔力を持ってる花なの。精霊はみんなこの花が大好きなのよ。リゼがこの花を咲かせてくれたからペンダントの外に出れたの。魔力はリゼからもらって回復してたけど、外に出るには足りなかったから。精霊の宿る花って昔は人間の世界でも呼ばれてたみたいね」


「えっ、もしこの花が無かったらクレルはずっとペンダントの中だったの?」


「んー、しばらくはそうだったかもね。気長に魔力が溜まるのを待つつもりだったし、リゼを見ながら過ごすのも楽しかったから。でもリゼの魔力だとそんなに時間かかるとも思えなかったもの。質も良いし魔力量も多いから、少しずつ力の使い方を私を通して教えようと思ってたの」


 朝はあんなにせっかちだったのに、クレルって気が長いのか短いのか。可愛いからどちらでも良いけれど……あぁイカンイカン、ダメな子を製造してしまう思考になってたわ。


「クレルを通してって、雨を降らせたり野菜を成長させたりしてたこと?」


「そう! 力を使っていたら体が魔力の流れを覚えるの。今までは使ってなくて蓋をした状態だったから。1度しっかりと覚えると魔力で体が満たされるからその時に出ようと思ってたの」


 にっこり笑って話すクレルはやっぱり可愛い!


「じゃあ力の使い方を練習しましょう! 基本さえ覚えたら簡単だからまずは水からね」


 クレルの教え方はとても上手だった。


 体の中を巡る魔力の流れや大気中の魔力の感じ方と取り込み方に魔力の出し方など。魔力が完全に切れると人も精霊も命の危機があるため少し疲れたと思ったらすぐに魔力を使うのをやめる事など。


 言われた通りに体の中の魔力を感じようと目を閉じて集中する。クレル曰く魔力とはじんわり暖かくすぐわかると…すぐ分かるだ…と? あれか…何でもそつなくこなしてしまう人の「大丈夫大丈夫! 簡単だよっ☆」と同じやつなのか。


「全くわからない…私才能ないんじゃ…」


「うーん、じゃあ私と一緒にやってみよう。私の魔力をリゼに流してみるから、さっきみたいに目を閉じてリラックスしてて」


 そう言うとクレルはふわふわと私の傍に飛んできて肩に手をのせた。


「いくわよ」


「あっ!」


 その瞬間温かな何かが体の中を流れているのが分かった。すごい!これが魔力なんだ。暖かくて心地いい、何かに守られてる気がしてホッとする。


「すごいよ! 温かくてすごく心地いい」


「私の魔力を心地いいと感じたのは、リゼが私の加護を受けたからだわ。フフフ。じゃあこのまま少し力を使ってみよっか。私が魔力を誘導するわ。胸の辺りに魔力を集めるてそこから右手まで移動させて外に出してみよう。リゼは水をイメージしながら魔力の動きを意識を合わせて」


 しばらくすると胸の辺りに熱が集まってきた。少しずつ移動している熱に、私も体の中の魔力を集めながら進んでいく。1度魔力を認識するとさっきまで分からなかったのが嘘みたいだ。段々と右手に近付いていき手のひらから一気に熱を押し出す!!!




 バッシャーーーーーーン!!!!




 水の塊が勢いよく飛び出し地上に落ちて来た。上から下までずぶ濡れだ……。


「リゼ、ちょっとやりすぎじゃないかしら?」


 えっ? 私のせいなの?? というかクレルはどこだ。周りを見てもクレルはいない。


「もー、リゼったら! ここよ!!」


 声のする方を見ると、ほっぺを膨らましながら怒っているずぶ濡れのクレルが地面に落ちていた。


「クレルーーー!! 大丈夫???」


 急いでクレルを手のひらにのせて家の中に入るとすぐに水を沸かして大きめの深いお皿にお湯を入れてクレルを中に入れる。飾っていた小さな花をいくつか花瓶から出してお湯に浮かせる。


「わぁ!」


 クレルの機嫌もなおったようだ。すぶ濡れになった服を着替えてくるとクレルもお湯から出て、浮かべてた花で髪飾りを作っていた。


「似合う?」


 薄ピンクのふわふわした髪に花飾りは少し大きいけれど可愛い!! やっぱりクレルは天使だ!精霊だけど。ニヤニヤしながらクレルをみていると、今度はクレルがニヤリと笑って「畑の庭」と言った


「え? 庭がどうしたの?」


「私の魔力とリゼの魔力ですっごい事になってるかもね」


 ガバッと立ち上がって急いでドアを開ける……。


「なにこれーーーー!!!」


 庭に出て周りを見ると辺り一面に野菜が溢れ花は季節関係なく咲き誇っている。一部野菜が巨大化しているのもある……森の家じゃなく森と一体化した家になってしまった。


 クレルがふわふわと飛んできて肩に乗ると

「思った以上に凄いわね」とつぶやいていた。

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