第5話 バンさんからの手紙

 街に行ってから2週間がたった。

 畑の野菜は毎日せっせと収穫しお店に送る以外のものはピクルスやソース、ジャムを作って過ごしている。ペンダントの力で大きくなった野菜たちもしばらくすると普通の野菜のように傷みはじめた。それでも今までの野菜と比べると新鮮な期間はだいぶ長い。


 後は冬の為に乾燥させて保存しておこう。家の横にあるジェフさんの仕事場だった小屋はすっかり野菜の保管場所となった。


 そんなある日、バンさんから近々店に来て欲しいと書いた手紙とパンが届いた。


「んーなんだろう。野菜の変更とかかな」


 季節によって使う野菜が変わるのでたまに店で話し合う事はあるけれど、この時期の変更は珍しいな……と、考えながらも視線はパンの方にいってしまう。バンさんのお店のパンは本当に美味しいので大好きなのだ。ある程度作業も落ちついたし早速明日行ってみよう。


「パンのお礼にトマトソースとジャムも持って行こうかな〜」


 素材が良いからか今回の出来はすごくいい。自分で作って感動している。せっかくだから誰かに食べて欲しい。

こんな時はジェフさんやライラさんを思い出す。食べて欲しいな、2人ならきっと美味しいと言って喜んでくれるんだろうな


 確か荷台屋のおじさんが街から王都までは馬車で1週間位って言っていた気がする。身体に堪える歳になったから今は街の周りの村までさ……と。配達の事は荷台屋のおじさんが詳しそうだけど、次会うのは4日後だしなぁ。荷物運ぶ方法を明日バンさんにも聞いてみよう。


「うーん、ソースもピクルスもこの暑さじゃ1週間も持たないよね。ジャムと手紙だけ持って行こう」


 小さい荷物だしもしかしたら直ぐに送れるかもしれない。



 明日の準備の前に畑に水を撒く。まだ野菜はあるからペンダントを使って成長させてないが、水撒きは魔法使いになった様でかっこいいので毎日ペンダントの力を使っている


「魔術師様の本ってあるのかな、せっかく街に行くし本屋さんにも行ってみよう! 」


 ウキウキしながら1日の作業と準備を終える。ジェフさん達が王都に行ってからは寂し気持ちを抑えながら過ごしていたけれど、最近は不思議なペンダントのおかげで毎日が違ってみえる


「ありがとう、今日も一日元気に過ごしたよ」


 ペンダントを握りしめおばあちゃんを思い出しながら眠りについた。




 次の日王都へ荷物を送る方法はバンさんに紹介された人によりあっさりと別の方向で解決する事になる。




 カランコロン


「おはようございます」


 次の日、お店のドアを開けるとバンさんは朝の準備が終わり一息ついている所だった。相変わらずパンのいい匂いがする。私に気がついたバンさんは作業場から出てきた。


「すまなかったな急に呼び出して」


「いいえ、あ、パンありがとうございました! 美味しかったです」


 お礼を言ったのにすごく微妙な顔でデコピンされた。


「いたっ! なんですか急に」


 おでこを抑えながら聞くと礼を言うのはこっちの方だと言われた。なんの事か分からず首を傾げると、どうやらペンダントの力で作った野菜とさくらんぼの事だった。


「野菜の作り方かえたのか? それとも違う品種なのか?どちらにしろ、今までも美味かったがそれとは全く違う美味さだ。ちょっとした評判になってな客も増えたよ」


 おぉ、それは良かった。


「それでだな……」


 ん?なんだろう。珍しく歯切れの悪いバンさんを見ながら話の続きを待っていると


「今日来てもらったのはその事なんだ。嫁さんの兄が王都で商人をしているんだが、リゼのさくらんぼを気に入って店に置きたいと言ってるんだ」と少し申し訳なさそうに話した


 どうやら先日野菜を送った日に、仕事で街に来ていたお兄さんがバンさんの家に来たそうだ。バンさんの奥さんが美味しいからとさくらんぼを食べさせたら感動したと言って、直ぐにうちに行こうとしていたと。

バンさんは先ずは自分が先に話をしてみるからとその日は帰ってもらったそうだ。


「悪い人じゃないんだか押しが強くてな、無理はしなくていいぞ」


 さくらんぼは沢山あるし、王都のお店に置いてもらえるならジェフさん達にも食べてもらえるはずだ。断る理由もない


「ぜひお願いしたいです」


「そうか! 詳しい話は本人からあるから、また3日後このくらいの時間に店に来てもらってもいいか?向こうにも話を付けておくから。準備も必要だろ? 大丈夫だと言ったら今日にでも来そうだ」とホッとした後に苦笑いしている。


 最近の野菜パンの人気を改めて聞いた後、バンさんに王都の配達の仕方を聞いた。


「商業ギルドに持って行けば直ぐに届けてもらえるが登録しないと使えないからなぁ。だいたい2〜3日で届くが」


 商業ギルドってなんだろう……荷台屋のおじさんの日数よりもだいぶ短い時間で行くみたいだし


「バンさん、商業ギルドってなんですか?荷台屋さんよりだいぶ早く着くんですね」


 バンさんは、あぁ田舎育ちだったなと言うと簡単に説明してくれた。


「商業ギルドは商売やってるやつらの元締めみたいなもんだな。ギルドに登録しなけりゃその街に店を出せないんだ。リゼみたいに森から卸してるだけなら入らなくてもいいがな」


「そうなんですね」なるほどなるほど。


「配達が早いのは王都専用の配達者がいるからな。荷台屋は途中の村や町にもよったりする分遅くなるんだよ。何か運びたいのがあるならギルドに行ってみるといい、俺の名前を言えば一度位は融通してくれるだろ。一筆書くからちょっと待ってくれ。今からなら昼の便に間に合うはずだ」


 バンさんに手紙をもらい場所を聞いてお礼を言うと早速ギルドへ向かう事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る