第44話 翼にとっての“最大の役割”

「凜々さぁぁぁぁん!!!!!」


 俺と月坂が警察署を出るとすぐ、モコが月坂に抱きついてきた。

 よほど心配していたのだろう。月坂に抱きつくとすぐ、モコは声をあげて泣いた。


「ごめんなさい、心配かけて……」

「ホント、やってくれたわねぇ。二人とも」


 続いて黒川さんが日向さんとともに車から降りてきた。


「いたっ」

「いでっ!!!」


 そして黒川さんは俺たちに近寄り、俺たちの額に一発、強烈なデコピンをかました。いや、強烈なのは俺だけか??


「凜々ちゃん」

「……はい」


 真顔を向ける黒川さん。そんな表情から月坂は目を思わず目を背けると、「はぁ」と一つため息をついて続ける。


「これでわかったでしょ? あなたは誰かに頼るべきだって」

「いや、今回は私の失態で……」

「そう。凜々ちゃんが誰かに頼らずに、一人で片付けようとしたことが第一の失態だよ」

「いや、そういうことじゃ……なくて……私は……」


 月坂は顔を俯かせ、涙声になりながらこう続けた。


「誰も巻き込みたくなくて……、誰にも……迷惑をかけたくなくて……それで……」


 コイツはいつもそうだ。

 だからいつも一人になるのを好み、なんでも一人でこなす。

 でも中学の頃にアメリカのクラスメイトとアニメの話をするとなったとき、英語がわからない月坂は俺に頼ってきた。

 それを機に、月坂は俺に頼るどころか、ワガママまで言って俺のことを散々振り回した。

 だから、言ってやった。


「誰にも迷惑かけたくないって、散々俺にワガママばっかり言ってたお嬢様のお前が、今更何言ってるんだよ」

「それは、関係ないじゃない」

「いいや。関係大アリだ。それに……」


 照れくさく感じたのか、俺は月坂から目を背けて言った。


「べ、別に、迷惑だとか思ってないし」

「…………」

「む、むしろ嬉しかった。いつもは素直じゃないお前が、遠慮無しで俺に関わってくれたことが。それに……迷惑かどうかなんて、お前の決めることじゃないし」


 そう言うと、月坂は顔を上げた。

 そして俺の言葉に続けて、日向さんも月坂に言った。


「アタシも、月坂さんのワガママ聞きたい。アタシたちに頼って欲しいし、たくさん迷惑かけて欲しい」

「日向さん……」

「ワガママもお節介もSOSも、全部聞かせて欲しいな」

「……でも、そんなの迷惑じゃ」

「迷惑なわけない。むしろこうやって心配かけられる方がよっぽど大迷惑だと思うけど?」

「……ごめんなさい」


 確かに日向さんの言う通りかもしれない。

 それが月坂もわかったのか、かなり反省して、また顔を俯かせる。

 そんな月坂の左手と、その隣にいるモコの右手を握って、日向さんはこう続けた。


「これからアタシたち、なんでも言い合おう。隠し事は無しで。ワガママ言ったり、迷惑かけたり、本音をぶつけ合ったりしてさ。誰か一人が困ってたら、危険を冒してでも、みんなで助けに行く。だって、アタシたち……」


 顔を上げ、日咲ひさきみのりに負けないくらい眩しい笑顔で日向さんは言った。


「友達だから!!」


 友達、か。なんかいいな。こういうの。

 三人の姿を見て、俺は思った。

 するとそこに、黒川が俺に寄ってきた。


「ツバサくん、キミはよくやったよ」

「じゃあ、なんでデコピンしたんですか」

「そりゃあ私に連絡も無しで、一人で犯人に立ち向かったからね。キミの方こそ、私に頼ってほしかったな」

「そ、それは……」

「おっ、言い返すの? そっくりだねぇ、凜々ちゃんと」

「くっ……」


 確かにこれじゃ、月坂と同じだ。

 さっきあんなことを言った自分が恥ずかしくて仕方ない。


「以後、気をつけます」

「よろしい。ところでさ……」

「あぁ。この手ですか?」

「それ、どうしたの?」

「えっと……、月坂の護身用ナイフを受け止めました」


 そう言うと、黒川さんは驚きながら「は?」と言った。

 その会話に反応した月坂は、黒川さんにこう言った。


「本当は私の手首を掴んで止めようとしたんだと思いますよ、彼。でも、動体視力が無さすぎて、ミスったのかと思いますが」

「そんなミスするかよ。それに……」


 俺は月坂にこう言い返す。あのとき、ナイフの刃を受け止めた理由を加えて。


「これで分かっただろ? お前のナイフのせいで、あんなことになるんだってこと。お前、見るのが怖いくらい血が嫌いだから、ナイフなんて持つべきじゃないって、分からせてやろうと思って……。それに……ナイフなんて、もう要らないだろ」


 ──だって。


「……お、俺が、お前を護るから……」


 ぐわぁぁ……。勢いでなんてこと言ってるんだ。

 気恥ずかしくなって、俺は咄嗟にこう付け足す。


「も、もちろん。マネージャーとしてだからな。アイドルを護るのは仕事だし。それに、それが"最大の役割"だし」


 やっぱり恥ずかしい。アホすぎる。

 大っ嫌いな元カノにかける言葉じゃないだろ、これ。


 モコはニヤニヤしながらこっち見てるし、日向さんは顔を真っ赤にしてるし……えっ、可愛い。


「…………そんなの、いらない」


 月坂に至っては、断りやがったよ。俺の勇気ある発言を無下にしてくれやがったよ。

 そこは黙って、恥ずかしそうにコクリと頷いてくれたら可愛いのに。


 だけど、デレることなく指で髪をクルクル巻き付ける月坂の姿は、いつもの月坂らしくて、可愛く見えた。



【後書き】


「続きが気になる!!」と思った読者様にお願いです。

良ければ☆や応援、応援コメント、作品のフォローなどしていただけると嬉しいです!!

それらは私の血骨となり、更新速度もどんどん速めてまいりますので、何卒よろしくお願いします!!!!


次回からの新章ですが、たぶん!!平和です!!たぶん!!!!!!

だって、デートするもん。

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