第39話  焦りに焦って……

 俺はあの後、月坂に話しかけようと何度も試みた。

 移動教室の時間帯とか、昼休みとか、その翌朝も──何度かタイミングを見計らった。


「くそっ、全く月坂に近寄れねぇ」


 けれど月坂を取り巻く男たちのせいで、なかなか月坂に近寄れなかった。


「あっ、あの……」


 いつもは一人でいるのを好むのに、最近の月坂はわざと男たちが集まる場所に行っては、囲まれに行っているように思える。

 そこまでして俺を遠ざけたいのだろうか?


『きっと今回も真意があって……、それをツバサに言えずに隠してるのだと思う』


 それとも、やはり俺に何かを隠しているのだろうか……?


「あっ、あのさぁ……」


 そう考えると、益々気になって仕方がない。


 今日の放課後は確か、月坂に予定はない。

 俺をいきなり遠ざけた理由があるのか?そして、その理由が何か?


「おっ、おーい」


 それらを、今日の放課後に全て問い詰めてやる。いや、問い詰めなきゃいけない!!

 たとえ、月坂に何をされようとも──。


「あっ、あのさ!!」

「うぉあ!?」


 昼休みの間、頬杖をついてボーッとしてる俺に、同じクラスの久保田が話しかけてきているのに気づいて驚いた。


「ど、どうしたんだよ?」

「あっ、いや、その……」


 あー、もうなんだよ……。

 心に余裕が無いからか、俺は久保田の話を進めない態度にイラつきを覚えていた。

 俺だってコミュ障だから、こうやって話を進めないことはあるのに……。


「だから、なんだよ?」


 気づけばうんざりした声が出ていた。

 平然を保とう。コイツの態度にイライラできる立場じゃないだろ?


「いや、あのさ……」


 そう言い聞かせても、心は落ち着かない。そして俺の中の冷静な呟きが、負の感情にどんどん呑み込まれていく。


「…………」

「なんだよ。用が無いなら──」

「きょ、今日の放課後、空いてるか!?」

「……悪い。今はそれどころじゃ……」


 ──今は久保田と呑気に喋ってられる場合じゃねぇんだよ。


「お、お前と話したいことがあってだな」

「いや、だから……」


 ──聞く耳持たずかよ……。


「そ、そのついでにオススメのラノベについて……」


「だから、それどころじゃねぇって言ってんだろ!!!!」


 …………………………………

 ……………………………

 ………………………


 やっちまった……。

 焦りに焦って溜まったイライラを、俺は関係の無い他人にぶつけてしまった。


「いや、あの……その……ごめん……」


 俺は咄嗟に謝った。

 あんなキツイ言葉を放った後だから、久保田の顔を見るのが怖くて──俺はつい、顔を俯かせていた。


「いや、俺こそ悪いな……翼」


 すると彼は怒ることなく、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。悪いのは、俺の方だって言うのに……。


「あっ、翼が忙しいなら良いんだ! ちょっとした自慢話をしにきただけだから……」


 そう言って久保田が俺の元から去ると同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。


「…………ん?」


 すると、携帯電話からLINEの通知音がかすかに聞こえた。

 受信したメッセージには、こう書かれていた。


『ツバサ!』

『月坂さんが今から一人で帰ろうとしてる!』

『なんかありそう……そんな顔してる。早く玄関に来て!』


 俺はそのメッセージに返信することなく、月坂の元へ急いだ。





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