第37話 No matter what happens, you should stay with……
翌日、約束通り俺は日向さんと二人で勉強していた。
明日からゴールデンウィークが終わって、学校も仕事が再開するのだから、今日はみっちり勉強しないとな。
そう思ってもあまり身が入らず、俺はボーッとしていた。
『今後、私と関わらないで欲しいの』
昨日悩んでいたことも忘れ、頭の中では
「ねぇ、ツバサ。ここなんだけどさ」
「…………」
「ねぇねぇ」
「…………」
「おーい」
「……あっ、ごめん」
日向さんに額をツンとされて、俺は彼女に声をかけられているのに気づいた。
「ここ、なんだけどさ……。どう訳せばいいの? この、ノーマター……」
「No matter what happens, you should stay with her……。これのこと?」
「おぉー」
ん? 俺、なんか変だったのかな?
「あっ、いやー、さすがだなツバサ。英語、超ペラペラじゃん!」
「あっ、ありがと」
「まぁ、そうだよね? ツバサ、帰国子女だし当たり前か! でも、いいなぁー。カッコイイし!!」
「あっ、うん。ありがとう……」
こんなにも好きな人に褒められてる。この上ない幸せな瞬間なのに、俺には今の状況が頭に入ってこなかった。
「それで? この英語はどう訳せばいいの? この……ノーマターってやつ」
「…………」
「ツバサ?」
「あっ、ごめん」
またボーッとしてしまった。
日向さん、怒ってるかな? そう思い、恐る恐る顔を上げると──
「どしたの? さっきから……」
すこぶる心配した表情をしていた。
「あっ、いや、その……」
ここは吐かずに隠しておこうかな。
そう思ったのだが、彼女があまりにも優しいから、「どうしても言いたい」と、俺の唇が震えていた。
「……あのさ、昨日なんだけど」
そして、
「そっか。なんかいきなりだね……」
「ほんと、意味がわからないよ」
やはり日向さんは俺の気持ちを共有してくれたのか、表情に少し影を見せた。
「それにしても、月坂さんってホントに最低だよね!!」
「えっ? 日向さん?」
「……って言いたくなるけど、ホントはそんなこと思うのは間違いなのかもしれないね」
緩んだ表情で日向さんは言った。
そして、そのままこう続ける。
「あの日に月坂さんがアタシに言った言葉もそう。あの人の言葉にはきっと真意があるのだと思うの」
その後、「まぁ、アタシはその真意からずっと逃げてきたんだけどね」と苦笑しながら言った。
「きっと今回も真意があって……、それをツバサに言えずに隠してるのだと思う」
そうだ。その可能性は大いにある。
月坂美狐乃は基本、なんでも一人で抱え込む。だから俺にも何かを隠していることだって多々ある。
「ツバサは、どうしたいの?」
「俺は……」
俺は日本に帰って来て、月坂と再会して──その日からずっとアイツを避けよう、避けようと思っていた。
だが、今はどうだ?
神様のいたずらで離れられない関係となった俺たち険悪な元カップル。
だけどあれだけ一緒にいて、昔は恋人同士だったんだ。「関わらないで」と言われて「あぁ、そうですか」と言って簡単に月坂から離れられるものか。
それに……
「俺は……月坂が放っておけない!」
アイツは一人でなんでも背負って、誰にもその重荷を渡そうとしない。
そんなやつだから、俺がどうにかしてあげたい。
そういう強い思いがあるから、俺の口からその言葉が自然と出てきた。
「そっか!」
日向さんは満面の笑みで俺に言った。
「月坂さんの真意、ちゃんと確かめよ!」
「そ、そうだね」
「お節介かもしれないけど、アタシも協力するし」
「いや、それは悪いよ」
ありがたい話だが、もし彼女たちの間に何かあれば今後に影響が出てしまう。
だから俺は日向さんの協力をお断りしようとした。それでも、彼女はこう言う。
「ユニットのメンバーのこと、知れることはたくさん知りたいから」
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