第34話  葵和子にとっての『日咲みのり』

 これは、アイドルになる前のある日のこと。


『みんな、ありがとー!!!』


 家電量販店のテレビ売り場。テレビ画面に映る一人のアイドルの姿に、アタシは釘付けになっていた。


 日咲ひさき みのり──現代の一般常識と言っても過言ではないほど有名な、アイドル界に君臨する"神"。

 そして、アタシの自慢のお姉ちゃん。


 アタシは小さい頃から、お姉ちゃんの背中をずっと追いかけていた。

 小学生の頃、アイドルとして輝くお姉ちゃんのマネを何回もやっていた。

 自分もあんなふうになれたらなーって、何度も思った。


 だけどいつしかその憧れは強くなっていて──「お姉ちゃんみたいになれたらな」という気持ちは、「お姉ちゃんみたいになるんだ」という決意に変わっていた。

 そして、気づけばアタシは本気でお姉ちゃんみたいになろうとしていた。


「お姉ちゃんみたいに明るく元気に!」

「お姉ちゃんみたいに可愛い歌声を!!」

「お姉ちゃんみたいに…………」


 歌を歌う時以外、普段から引っ込み思案で恥ずかしがりの中学生までのアタシは、高校入学を機にどんどん自分を変えていく。

 自分で言うのも気恥ずかしいけど、前よりはお姉ちゃんみたいに可愛くて、明るい女の子になれたと思う。


 ──だけど、高校一年のある日。


『あなたがどう頑張っても、日咲みのりにはなれない』


 『学園のアイドル』と呼ばれる美少女、月坂美狐乃(つきさかみこの)にアタシの憧れを否定された。


 悔しくて、悲しくて、虚しくて──その日はただ涙を流すしかできなかった。

 そしてあの子を避けるようにもなったし、あの子の言葉から何度も逃げた。

 本当はわかっていた。あの子が何者か。


『だから、あなたは日向葵和子(ひなたきなこ)として、全力で私にかかって来なさい』


 そして、あの子の言葉の真意も。

 それでもずっと逃げて、トップアイドル日咲みのりになるために生きてきた。



 だけど今日のステージで、お客さんたちに『日向葵和子』を見てもらって──アタシは思い出すことができた。

 お姉ちゃんとは全く違う自分自身の歌声が、あんなにも評価されたことを。

 そして何も考えず、何も意識せず──『自分らしく』歌うことの快感を。解放感を。


 だからアタシは、お姉ちゃんになろうとするのはもう辞める。

 月坂さんの言う通り、アタシはお姉ちゃんにはなれない。

 お姉ちゃんを目指す自分の姿もまた、『自分らしさ』かもしれないけれど、それは本当の自分じゃない。


 アタシは、唯一無二のアイドル『日向葵和子』として生きていく。

 そして、ずーっと憧れてきたトップアイドル日咲みのりの背中を追って走っていくんだ。


 いつか肩を並べられる、その日まで。



【あとがき】

この、なんていうか……。

プロローグと同じようなエピソード書いてみたかった(笑)


てことで、ここで一章は終わりです!

良ければこの作品の『フォロー』や応援コメント、☆やレビューをつけてこの作品をもっと盛り上げてくれると幸いです!!


ちなみに3月24日は次章の投稿準備のためにお休みをいただきます。

25日からまた投稿開始致しますのでよろしくお願い致します。

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