第31話 戦え、真に自分らしく……
「それじゃあもう一曲……いける?」
みのりが後ろを振り向いてそう聞くと、(事情を知っている)美狐乃とモコは「まだいける」と、自信ありげに頷いた。
「えっ? ちょっ、まさか今から踊るの!?」
元々はみのりのバックダンサーとしてステージに出るとしか思ってなかった
もちろん驚くより他はない。
「ちょっと、聞かされてないんだけど!?」
本気で狼狽える葵和子に、会場から笑いが起こる。
観客は皆、冗談と受け止めているようだ。
「ねぇ、なんで二人とも余裕そうな顔!? まさか知ってたの!??」
事実、これは全く冗談ではない。モコと美狐乃はバツの悪い顔をして、葵和子から咄嗟に目を背けた。
そんな彼女たちに葵和子が「もう!!」と言って頬を膨らますと、観客は大爆笑。
その笑いを聞いて、葵和子は悔しさと恥ずかしさで頬を赤く染めた。
「むっ」
「えっと……」
「……はぁ。大丈夫。いけるよ、お姉ちゃん」
ひとつため息をつくと気持ちの整理がついたのか、葵和子はキリッとした表情をみのりに向ける。
『日向葵和子はステージに立てば無敵。この程度で屈するアイドルでないと知れ』
彼女の余裕と自信に満ちた表情が、ステージにいる皆に語りかけた。彼女のその姿はもはや新人アイドルにあらず、といったところだ。
「……ありがとう」
あんなことをされても尚、気持ちを乱さずに次の曲に挑もうとする葵和子を見て、みのりは安心するとともに、尊敬の眼差しを向けた。
「話はあとで、ね……」
「……はい」
バックに向かう際に葵和子がさっきのことをかなり引きずっているのが伺えたのか、みのりは本気で申し訳ない気持ちになった。
──だが今は、そんな気持ちになってる場合ではない。
「それでは聞いてください──『
みのりは表情を引き締めて、客席に広がるオレンジ色の海に顔を向けた。
ステージは暗くなり、ペンライトのオレンジ色だけが眩しく光っている……。
「日向さん」
顔を前に向けながら、美狐乃が声をかける。
「この際だから、もう一度ここで教えてあげる」
「うわっ、出た……。いいよ、今なら聞いてあげる」
「……日向さん」
「……………………」
「どう頑張っても……あなたは絶対、日咲みのりにはなれない」
文化祭の日、葵和子の心を痛めたこの言葉。だけどこれには続きがある。
それを知っているからか、葵和子はコクリと頷いた。
「だから──」
美狐乃は葵和子のいる方に体を向ける。それに応えて、彼女も美狐乃と向かい合う。
「あなたは『日向葵和子』として、全力で私にかかって来なさい!」
ステージは暗い。見えるのはオレンジ色の光だけ。
なのに二人にだけ、スポットライトが当てられたように見えて──お互いの好戦的な表情がはっきり目に映った。
「リーダーで先輩の私を差し置いて勝負ですか……」
目に見えないスポットライトが、二人の少し後ろに立つ少女に照らされる。
「この
「二人とも、私に負けないでくださいね??」
「「望むところ……」」
美狐乃とモコへの強い闘争心を宿し、葵和子は再び前を向く。そして美狐乃も、オレンジ色に光る海に目を向ける。
二人は思い出していた。
初めて二人が大きな舞台で、歌声で戦ったあの日のことを──。
──さぁ、行こう!!
二人の強い意思が合致すると同時に、ステージがパッと明るくなった。
音楽が始まり、それと同時にグリッターステラの三人は踊り始める。
三人が時折目を合わせる度に、「負けるものか」と、自身の動きに磨きをかける。
だからだろうか、新人アイドルの三人のパフォーマンスは、前で踊るアイドル界の"神"に近いものになっていたのだ。
これには観客は大盛り上がり。
(すごいよ、三人とも……)
その一人である翼も、心を奪われていた。
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