第21話 ここに集うは『輝く星たち』

「ひ、日向ひなたさん!?」


 部屋の扉を開けて俺は驚いた。

 まさか隣の席の、俺の好きな人が月坂美狐乃つきさかみこのの加入する新しいユニットのメンバーだとは思いもしなかったから……。


「それに……なんで月坂さんが……」


 けれど彼女は、俺以上に驚いているだろう。

 隣の席の陰キャがこんなところにいて、さらに月坂美狐乃がアイドルとして、自分と同じユニットであるのだから……。

 表情は歪んでいた。間違いなく彼女は、月坂美狐乃──アイドル月夜凜々つくよりりとの遭遇を快く思っていないだろう。


「アイドルやってたとは聞いてたけど、まさかアタシと同じ事務所だったとはね……」

「ほんと、おもしろいものね」


「…………」

「…………」


 二人の周りに、重苦しい雰囲気が形成される。なんだか胸を締め付けられる……。


「えっと。確かここで……」


 そんな二人の気まずい空気に光が差し込む。

 遅れてもう一人のメンバー、咲良さくらモコが部屋に入ってきたのだ。


「あっ、皆さんおはようございます!」


 さっきまでの悪いムードから一変。

 純白のワンピース姿のモコに気づいた月坂と日向さんは顔色をコロッと変えた。


「あら、おはよう。今日も妖精さんみたいで可愛いわね」


 モコをパッと明るい表情で迎える月坂。さっきまでの緊張と喫驚きっきょうが一気に払拭されている。

 それにしてもコイツ、ロリには優しいんだな。


「でへへぇ……凜々さん、ありがとうございま──」

「うわぁぁ! 何この子、超可愛い!!」

「ふぇ、ふぇぇぇぇ!?」


 モコの姿を見て、日向さんはモコの元へ勢いよく飛んできた。

 そして両手をすりすりして、舐め回すような視線で彼女を見る。その目はさっきまでと違ってキラキラしていた。


「あっ、あの。えーっと……」


 突然のことにモコは顔を真っ赤にしておろおろとしていた。


「ねぇねぇ、お名前は? 年齢は??」

「あっ、咲良モコ。15歳です! 今年で16歳になります!」


 戸惑う仕草を見せながらも、モコは日向さんの唐突な質問に噛むことなく答えてみせる。

 さすが。こういうの慣れてんのかな。……てか、今年で16歳ってマジ!?


「うそぉ! アタシと一個違い!?」

「てことは17歳ですか? じゃあ凜々さんと──」


「ちょっとあなた、初対面の人になんて失礼な態度を取ってるのよ!!」


 モコが少し明るい表情を見せると、月坂が日向さんからモコを引き離した。

 日向さんの行動に怒ってる、というか「私のモコに触らないで!」と言わんばかりの表情で日向さんを睨みつけながら戦慄わなないている。どんだけ必死なのさ、この人。


「あっ、ごっ、ごめん……」


 間違いない。日向さん、完全に月坂ロリコンのことを引いてる。



「おっ、揃ってるね?」


 俺たちのいる部屋に、黒川くろかわさんと三人の関係者らしき人たちが入ってきた。

 黒川さんの手には何枚かの資料が入ったファイルが三つ。その表紙には、三人のユニット名らしき名前が書かれていた。


「コホン……。よくぞ集まってくれました。新ユニット『GlitterグリッターSTELLAステラ』の皆さん!」


 黒川さんは言った──彼女たちのユニット名を。


「グリッター……ステラ……。私とモコ、そして日向さんが?」

「新しいユニットの名前……。アタシ、本当にアイドルになるんだ……」

「ほぉぉぉ……」


 三人は黒川さんの顔に目を向ける。

 そして三人は互いに目を合わせた。ここで名前を与えられた彼女たちは初めて実感する。


 この三人が新しい仲間ユニットだということを。


「そして、翼くんを……」


 そんな三人を見てすぐ黒川さんは俺を指差して、こう続けた。


「この三人……グリッターステラのマネージャーに任命します!!」



【後書き】


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