第18話 衝撃的すぎるエンカウンター

「ごめんねツバサ! 本っ当にごめん!!!」


 翌日の金曜日、俺が教室の席に着くといきなり日向さんが俺の前に立って懸命に謝った。


「あぁ、いいよ! テストまでまだ時間あるし!!」


 俺がそう言うと、「そうだよね」と思ったのか、彼女の表情がにへっと緩んだ。


「ち、ちなみに……今日は?」

「あー、今日も空いてないや。ほんとにごめんね……」

「あっ、うん……」

「そうだ! ゴールデンウィークはどう? たとえば、五月の四日とか?」

「あっ、その日なら……」


 俺はメモ帳をぺらっとめくる。良かった。その日は何も無い!


「あっ、空いてるよ」

「おっ! じゃあその日にする!?」

「あっ、うん。そうだね」

「じゃあ場所はスタバで!!」

「うん、わかった!」


 ということで日曜日の予定は来月のゴールデンウィークに変更となった。

 神様お願いします。どうか、予定が入りませんように──。



 〇



 今日は月坂の予定がない。マネージャーの予定以外、何も予定のない俺は暇である。

 だから俺はゴールデンウィークに向けて、図書室で勉強していた。勉強ができるカッコイイ姿を見せたいからね。


「ん、ふぁ〜」


 気づけば時間は夜の7時。

 俺は情けない声をあげて背筋を伸ばし、荷物をまとめて図書室を出た。

 けれど俺は勉強を止めない。駅前のファストフード店に行こう。俺は思った。


 駅前は仕事帰りのサラリーマンなど、様々な人がいる。

 けれど今から行くファストフード店は、確実に席が空いている。だから急がない。

 ついでに晩飯をそこで済ませて、10時まで勉強しよう。そう思った俺は知らなかった。


 この日、運命的な出会いを果たすことを──。



 俺は駅前までバスに揺られていた。

 駅へ向かう人たちが多く、座る席はない。だから仕方なく、俺は片手で吊革に掴まって、もう片方の手ですまほを弄って立っていた。


「それにしても、器用だな……」


 サングラスにニット帽姿の女性は、俺の隣で立ちながら居眠りしている。

 すぅ……すぅ……と安らかな寝声が耳に入ってくるし、香水のいい匂いが鼻をくすぐる。

 俺はその女性に気づいてからずっとドキドキされっぱなしだった。

 スマホを持つ手は汗に塗れていて、画面は手汗でツルツルしている。


 ──てか、なんでサングラスにニット帽姿?


 露骨すぎる変装?に俺は首を傾げた。

 間違いなく変装だよな? 有名人? それとも変装しなきゃいけない程、怪しいお仕事してる人!? まさか犯罪者ってことはないよな!?

 彼女を見て、様々な考えが錯綜する。


 そんなときだ。


『急ブレーキにご注意ください』


「ひゃっ!!!」


 バスの運転手のアナウンスとともにブレーキがかかるバスに、彼女はふらついた。


「うぉぁ!?」


 そしたらなんたる幸運か。

 彼女が俺のところに勢いよく前からぶつかってきた。

 俺は彼女を受け止める。彼女の身体に触れて、俺はひどく混乱した。


「あっ、あぁ、ごめんなひゃい!!」

「わっ、私こそごめんなさい!!」


 俺がサッと彼女から離れると、彼女も俺から離れて狼狽した。

 焦って出た声は寝声から伺えたように、透き通っていて可愛らしい。

 おまけにサングラスも少しずれていて、それにより、予想通りの美少女フェイスが崇めて……。


 ──あれ? もしかして……


「あっ、日咲ひさきみ……」


 俺が彼女の名前を発しようとした瞬間、彼女が俺に顔を埋めて抱きついてきた。

 あまりにも突然なことで、俺の口が止まった。


「ごめん、ちょっと辛抱して……」

「あっ、あっ……ごめんなさい……」


 身バレを恐れた彼女の身体は震えていた。間違いない、トップアイドルの日咲みのりだ。

 しかもそのトップアイドルが俺に抱きついてきた。これは僥倖ぎょうこうにも程がある。


「あっ、あー、日咲みのりのライブ当たったー。ばんざーい……あははは……」


 乗客の視線が俺に集まっていたので、俺は下手な棒読みでなんとか彼らの視線を背けさせた。


「あっ、あの……」

「ねぇ、時間ある?」

「あっ、はい」


 彼女の質問に返事をすると、更なる僥倖が俺に降りかかった。


「ちょっと、ついてきてくれる?」


 予定変更。

 俺は今からトップアイドル日咲みのりと行動を共にすることになった。


「あっ、はっ、はい」

「……ありがと」


 顔を埋めながら、彼女はクスッと笑った。


 トップアイドル日咲みのりが陰キャ高校生の俺に抱きつきながら、バスは駅前まで走っていった。


 俺、そろそろ死ぬのかな──。



【後書き】

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 ところで日咲みのりとは何者??

 それはまた、次回のお話だよ〜。

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