第12話 懐かし恥ずかし昔話

 時は現在に戻る──。


「そういえばあなた、いつまで経ってもヒョロヒョロなのね? 男のくせに情けない……」

「は? 別にどうでもいいだろ。そんなこと」


 翼が服の袖をまくって腕を晒すと、すかさず美狐乃はそれを見てクスリと笑う。

 仕事の帰りでも、やはり二人は喧嘩せずにはいられないのだ。


「お前、ほんとに可愛くなくなったよな」

「……なに? 殺されたいの?」

「ほら、そういうとこ。そうやってまた制服の胸ポケットから刃物出そうとするとこ! てかなんで、そんな物騒なものを躊躇いなく出そうとできるんだよ?」

「言ったでしょ? これは自己防衛よ」

「自己防衛って……まぁ、いいや。俺が言いたいのは、昔みたいにちょっぴり素直だったお前はどこ行った?って話だ」

「私は何も変わってないわよ? あなたが見たのは、どうせ夢の中で見た私か何かじゃないの??」

「んな悪夢見るかよ」


 またまた喧嘩に火がついた両者。けれどこの後、翼の放った言葉に美狐乃が固まった。


「あーあ。俺、嬉しかったのになぁ。俺と会えて嬉しかったって、言ってくれた月坂のことー」

「くっ……」


 昔の自分の行動に美狐乃は顔を真っ赤にして、思わず立ち止まって翼から目を背けた。


「し、仕方ないわ! あれは、不可抗力よ……」


 長い髪を指でくるくる巻きながら、彼女は言った。恥ずかしくなるとついやってしまう美狐乃の癖だ。

 それを知っている翼。気持ちが昂って、美狐乃に追い打ちをかけていく。


「ふかこーりょく? じゃああれ以来、積極的に話しかけてくれたのも不可抗力か?」

「そ、それは……友達がいないボッチのあなたに優しくしてあげただけよ。言ったわよね?話し相手になってあげたって」


 美狐乃はいつも通り強がってみせるが、頬の赤みはちっともひかない。むしろ、どんどん紅潮している。


「じゃあ俺と一緒に帰ってくれたり、帰る前にチラチラと俺を見て、俺が帰る準備が終わるまで密かに待ってたのはなんだよ?? てか、忘れてないか? 俺がいないと退屈~とか言ってたの──」

「う……うりゅしゃい!!!」


 美狐乃は何も言い返せなくなって、噛みながらも「うるさい」と吐き捨てて尻込みした。

 そんな自分を見て、翼は勝ち誇った顔を見せるのだろうと美狐乃は思った。


「…………」


 しかし実際に翼の顔を伺うと、照れて美狐乃から目を逸らしていた。

 そんな翼を見て即座に、美狐乃は目を他所に向けて、また髪を指でクルクル巻きつけた。


(あんだけ私の黒歴史で辱めておいて、なんで翼くんまで恥ずかしそうにしてるのよ。自滅? 不覚にも『可愛い』って思っちゃったんだけど……)


(噛むなよ、そこ。しかも顔真っ赤にして、声上ずらせてよ。不覚にも『可愛い』って思っちゃったじゃねぇか……)


 しばらく黙り込んで、顔を合わせない二人。


(翼くんじゃなきゃ、惚れてたわ。これ)

(月坂じゃなきゃ、惚れてたぞ。これ)


 だけど気持ちのベクトルは、見事に一致していた。



【後書き】この作品の続きが気になるよ!この二人の夫婦漫才めおとまんざい(笑)が今後も見たい! という方は是非とも☆やレビュー、作品のフォローをして、この作品を応援してくださると嬉しいです!!!


ちなみに次回は、葵和子きなこちゃんが物語にかなり関わっていきますよ〜( ´﹀` )

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