第7話 藍川翼、今日からバイト始めます。
ある日の放課後、俺は学校の近くのカフェこと、スタバへ向かっていた。
今日はそこでアルバイトの依頼人に会うことになっている。
陰キャがスタバで一人、みすぼらしい私服を着てうろうろしているのは気にしないでください。心が痛むので。
『窓の近くの席、コーヒー片手に足組んで待ってまーす』
依頼人から軽快な調子で、詳細なメッセージが送られた。
「あっ、いた」
メッセージの通り、窓の近くの席に
ウェーブのかかった髪で作られたポニーテール。スラッとした高身長。
スーツ姿と黒いヒールがよくお似合いだ。
「あっ、どうも」
俺と目が合って、彼女は「こっちこっち」と手招きをしてきた。
陰キャの俺は恐る恐る、輝かしいキャリアウーマン美女に近づく。
「君が
「あっ、はい」
「……座ったら?」
「あっ、はい」
全然口が動かない。
俺はこのまま相手の言葉に対して「あっ、はい」しか言えない気がする。それほどまでに俺は今、緊張しているのだ。
「私は、こういう者です」
スーツの胸ポケットから取り出されたのは、黒い名刺だ。
名前は
「アイドルプロデューサー!?」
「しーっ!!」
あまり見慣れ、聞き慣れしない職業に驚き、僕は思わず声を上げた。
アイドルプロデューサーってまさか、あのゲームのプロデューサーみたいなやつですよね??
「ちょっと、ついてきてくれるかしら?」
「えっ?」
「話の続きは後で。ここで話せるようなことではないしね?」
コーヒーを飲み干すと、彼女は立ち上がった。
アイドルのプロデューサーだから、こんな公の場で話せることなんて無いだろうと、彼女の行動に納得した俺は黙ってついて行く。
「さてさて、乗りたまえ〜」
「……マジですか?」
「マジ、だよ?」
スタバから出ると、黒塗りの高級車が待ち構えていた。
お金持ちの学校であるが故に、学校では見慣れたものなのだが……。乗るのは初めてだ。
「し、失礼します」
俺はゆっくりと身体を高級車の中へ入れた。初めての高級車に胸は高鳴っているが、正直怪しくて怖いと感じている。
「ほら、早く乗った乗った!!」
「うぉあ!?」
車に乗り込もうとする俺の背中に向かって、黒川さんはタックルしてきた。
その勢いで俺は車の中に入れられ、黒川さんは綺麗に着席。お見事。
運転手さんが俺たちの着席を確認すると、車はどこかへ向かって出発した。
「あの、どこ行くんですか?」
「どこって……職場だよ?」
「職場って、アイドルたちのいる事務所ですか!?」
「そう、だけど……。なに? まさか興奮してんの!?」
「そ、そりゃ……」
口に手を当てて、クスクスと笑われた。
なんか「オタク、キモーい」って思われた気がする。
「ところで俺の仕事って?」
「あー、それ言わなきゃだよね〜」
「今言うのも遅い気がしますが……」
「まぁ、いいじゃん! 今から言うから〜」
果たしてそうだろうか?
バイトの内容も目的もわからず車に乗せられて、仕事内容が最悪だったとしても、もう逃げられない。
だから俺は願った。できればアイドルと多く関われる、楽な仕事でありますように、と。
「キミの仕事は……雑用係ね?」
「は?」
「いや、言い換えると……"マネージャー"。アイドルのマネージャーだね」
「それならそう言えばいいのに──って、えぇっ!?」
「嬉しいでしょ? オタクくん」
「いや、まぁ、嬉しいっちゃ、嬉しいんですけど……」
まさか俺がアイドルの“マネージャー”として働くことになるとは……。
しかも高校生で? 陰キャで? コミュ障で……。こんな俺に務まるものだろうか。
「俺みたいなやつが、できるんでしょうか?」
不安感丸出しでそう聞く俺。けれど黒川さんは余裕の表情を見せる。
「大丈夫。できるよ」
そして自信ありげに笑ってみせた。
そんな根拠の無い自信を持った様子の黒川さんに疑いの目を向けていると、車のナビが目的地に到着したことを知らせた。
「さぁ、降りるよ」
「あっ、はい」
「じぃや、ありがとね~」
黒川さんが笑顔で手を振ると、運転手さんは振り向くことなく軽く会釈した後に車のドアを自動で閉め、何も言わずに去って行った。
「ここだよ。私たちの事務所『トゥインクルムーン』」
「ここに、アイドルが……」
ビルの中の一部として、その事務所があった。一階にはラーメン屋。肝心の事務所はビルの三階。窓には事務所の名前が書かれていた。
ビルの中を入り、エレベーターで三階まで上がると、事務所の前の扉に行き着いた。
今から生のアイドルに出会う。興奮は抑えきれない。
どんな子がいるのかな? 担当するアイドルって、どんな人なのかな?
期待に胸を膨らます俺を横目で、黒川さんはニヤニヤしていた。俺のウブな反応を見て楽しんでいるようだ。
そして黒川さんが取っ手に手を伸ばし、中に入ろうとした。
そのとき、『ピンポン』という音と共に背後のエレベーターが開いた。
「そこ、邪魔なんですが」
アイドルらしからぬ冷めた口調が耳の中に吹き込み、俺はゾッとした。
その声に恐怖を感じた。だけどその声に聞き覚えがあって、同時に悪寒も感じた。
ゆっくり目を動かし、続けて顔を動かした。
そして後ろにいる子と目を合わせたそのとき、脳天に雷が落ちたような衝撃が走ったのだ。
「は?」
「は!?」
だって後ろにいたアイドルは“
眼鏡をかけているが、眼鏡越しに見える鋭い目つきが決め手となった。間違いなくコイツは、俺の大っ嫌いな“学園のアイドル”だ。
「なんで、お前が?」
「そっちこそ、なんであなたが……」
二人は指を差して顔を見つめ合い、気が動転したのか、目を回していた。差した指は震え、俺に至っては背中や脇から汗がじわり。
「狙ったのかと思うほど、ちょうどいいところに来たね? 漫画みたいに」
そんな俺たちを見つめた黒川さんがハハッと笑う。かと思えば彼女は月坂の肩に手を置いて、俺を指差してこう言い放った。
「この子がキミの新しいマネージャーだよ」
彼女が放った発言は俺の、いや……俺
【後書き】
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