第6話  紹介されたバイトが怪しすぎる件

「バイト、探さねぇとな……」


 放課後、家路を歩きながらそんなことを漏らしたのは、お金持ちの学校に通う帰国子女陰キャである。

 お金持ちの学校に通っているのにバイトを探してるなんて、まぁおかしな話だ。


「いや、おかしいのはウチの両親だ」


 ウチはかなりのお金持ちだ。けれど俺は違う。

 俺は日本の高校に転入したのを皮切りに、両親に一人暮らしをさせられることになった。

 しかも安いアパートとその家賃、少ない仕送りを与えて。

 両親曰く、俺を自立させたいとのこと。

 それはわかる。だけど、できればバイトしなくてもいいほどの仕送りが欲しい。


 要するに、働きたくないでござる。


「でも、仕方ないよな……」


 きっと仕送りが少ないのは、バイトをさせて俺を更生させるためだろう。

 俺はそれらしい理由をつけて、スマホを開いてバイトを探した。


『プルルルル……』


 タウンワークの画面が着信画面に切り替わる。相手はウチの父親だ。


「……もしもし」

「よぉ、ツバサ。元気にしてっか?」

「いいや、誰かさん達がお金をくれないから、絶賛金欠中で元気じゃないですよ」

「いやぁ、やっぱりか!」


「やっぱりか!」じゃねぇよ!! 誰のせいなんだよ──って言いたいけれど、悪いのはバイトを探さない俺なんだよな。

 そう思うと、何も言い返せなかった。


「それで? バイト探し中か?」

「まぁね。そろそろ働かないと、来月は飢えて死ぬし」

「っはは! そうだよな!! そこでだ、ツバサ……」


 ここでビッグニュースだ! とでも言いそうな父親は、少し黙ってから話し始める。


「俺がバイト、紹介してやろうか?」

「えっ?」


 これには驚いた。

 自立させるために、俺に手助けをしないとばかり思っていた父親が、こんなことを言うとは……一体どういった風の吹き回しだろうか。

 疑わしいが、今はそれどころでは無い。


「詳しく、お願い」


 俺は父親から与えられた助け舟に乗ることにした。

 すると彼が電話越しで「ふっ」と笑う声が聞こえた。


「時給は──で」

「は!?」

「基本、放課後にほぼ毎日働いて欲しいとのことだ。彼女にフラれて、暇だからいいだろ?」

「うっ……心が……」

「あー、わりぃわりぃ。ちなみにこのバイト、月で平均──円も稼げるぞ?」

「はっ!!??」


 給料の話になる度に驚きで声をあげた。そのバイトの給料は、高校生に与えられるものとは思えないほど高額であったのだ。


「でも、なんか胡散うさん臭くないか?」

「大丈夫、大丈夫!!」


 全く信用ならない軽々しい口調は、余計に不安を煽った。

 けれども俺にはバイトを選ぶ余裕などない。それに相手は父親だ。俺を騙すマネなどしない。

 そう思った俺は「わかった、やるよ」と言って、父親から与えられたバイトを受けることにした。


「よし、決まりだな。そんじゃあ詳しくはわかってから連絡する。じゃあな?」


 ということで、俺のバイトはすぐ見つかった。

 タウンワークやバイトルにも掲載されていない、誰もが「やりたい!」と思えるほど、頭のイカれた高額バイトだ。


 ちなみに内容は、何一つ聞かされていない。

 翌日に電話で「学校の近くのカフェでバイト先の方と話し合いがある」と父親に聞かされたが、そのときも彼は俺にバイトの内容を何一つ教えてくれなかった。


「あっ、そのバイト……辞めるとか言うなよ?」

「は?」

「だって依頼人は俺の知り合いだからさ。お前がそんなこと言ったら俺の面子が丸潰れだし? てことでよろしく!! お前がやるって言ったんだ。男に二言は無しだからな?」

「いや、ちょっと待っ……」


 あまりにも勝手なことを言い残して、父はすぐに通話を切った。

 確かにやるとは言った。だけどな……。


 俺は携帯電話の画面を閉じて、一つ嘆息した。

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