第5話 月坂美狐乃が話しかけてきた件
あれから数日間、俺は月坂に話しかけることはおろか、顔を合わせることなく平和に過ごしていた。
心が傷つくことなく、ナイフを突きつけられることのない──教室の隣の席に"好きな人"がいる幸せな学校生活だ。
そんなある日の昼休みのこと、俺は購買でパンを購入していた。
「メロンパンください」
「はいよ、120円ね?」
「……げっ」
値段を言われて財布を開けると、中に1000円紙幣が一枚だけの状態だった。
ここで思い知らされる──金欠であると。
お金持ちの学校なのに、食堂に行かずに購買で安いパンを買って、それでも金欠。情けない話だ。
「はい、1000円で」
「あいよ。
「えっ、お釣りは880円じゃ?」
「おまけさ。『金ねぇじゃん!』って顔しとったし?」
しかも哀れまれて、おまけしてもらっちゃったよ。
お金持ちの学校なのにね? あはははは……。
「どこで食べようかな……」
学校の窓から外を眺めながら、今日の昼食スポットを探していた──そんなときだ。
「あらあら、今日も一人で寂しくお昼ご飯かしら? 惨めな陰キャだこと……」
月坂美狐乃に話しかけられた……なんで!?
「お、お前、俺と関わらないんじゃ……」
「あら? 私はあなたに『話しかけないで』って言っただけで、私があなたに話しかけない、とは言ってないわよ? 国語力、大丈夫?」
出会って早速、俺を嘲笑うような口調と表情の月坂。アメリカにいたときと何も変わらない。
「ていうかお前こそ一人じゃねぇか。ブーメラン刺さってますよ? 惨めな陰キャさん」
「いいえ。私は一人が好きなだけよ? 今までも、これからも」
「あー、そうですか。そうですね? お前は一人が好きだから惨めじゃない、って言うんだろ?」
「そうよ。だって私、あなたみたいな惨めでキモい軟弱もやしとは違うもの」
「あぁ、そうだな。でも客観的に見れば、お前も惨めなボッチだ──」
『プルルルル……』
俺たちが言い合ってるときに、月坂の携帯電話が鳴った。
月坂は後ろに向いて電話を出た。
「お疲れ様。……わかった。ありがとう」
電話の相手はプロデューサーかマネージャーだろうか? 「お疲れ様」って言うんだから、職業上(アイドル)の関係者だろう。
「……無理、しないでね? じぃや」
ん? じぃや? じぃやって、月坂の執事さんだよな。でも今、お疲れ様って……。
奇妙な電話の内容を聞いて、俺は月坂をじっと見つめた。
「なぁ、今、じぃやって……」
「…………」
月坂が電話を切った瞬間に俺は話しかけた。けれど彼女は聞こえないふりをするのか、こちらへ振り向かない。
そのまま彼女は俺の元から何も言わずに立ち去ろうとした。
「おい、月坂」
「話しかけないで、って……言ったわよね?」
けれどその言葉で俺を一蹴。
また俺に殺意の篭った目線を向ける。しかも今日はこの前よりもやけに強い。
俺が余計に嫌いになったのか? それともさっきの話は、あまり触れてはならなかったのか?
わからないし、他人事だしどうでもいい。
そんなことより相変わらずアイツの目、怖すぎ。ナイフも持ってるし、あまり怒らせると本当に殺されそうだ。
アイツと関わるべきではないと、より一層思えた瞬間だった。
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