第3話 二人だけの秘密
『うわ、バカが帰ってきたぞ!』
『マジでフラれたのかな??』
『てかさー、陰キャのくせに? 転入初日に? 「学園のアイドル」に告るとかマジでキモいんだけど??』
教室に帰ると、皆が俺を見てクスクスと笑っていた。
ただ元カノに挨拶して、ただ元カノを怒らせた。ただそれだけなのに……。
人々は勘違いして、「転入初日に陰キャが美少女に告白した」とか言っている。
「ねぇ」
鬱々とした気分の俺の耳に天使の声が聞こえてきた。日向さんだ。
「……」
「えっと、あの……」
「……」
「ど、ドンマイ!!」
親指を立てて、無理に笑ってくれた。
くそっ! 日向さんにも勘違いされてる……死にたい。でも、ありがとう。
「……いや、違うんだ」
「ん?」
──この際だから日向さんには本当のことを話そう。
「学園のアイドルが、陰キャの彼女でした」なんて、面白いラブコメみたいな話なんか信じてもらえないかもしれない。
だけど、「日向さんになら話してもいいかな?」と俺は思った。
だって彼女は優しいから。
久しぶりに再会した元カノにいい加減にあしらわれた俺は今、陽の光のような優しい温もりを求めているのだから。
「俺、実はアイツの──」
──いや、ちょっと待った!
ここで俺は冷静になって考えてみる。
もし教室でこのことを話せば、学校中が大騒ぎになるだろう。
だって学園のアイドルの元カレがコミュ障陰キャとかいう話が出回れば、月坂もこの学校で生きづらいだろう。もちろん俺も生きづらい。
だから俺は口を止めた。
「なに? 月坂さんの……なに!?」
「いや、なんでもない」
「えー、教えてくれないんだ……」
「……ごめん」
小声で謝ると、彼女は俺に寄ってきて小声でこう聞いてきた。
「もしかして、誰にも言えないこと?」
「あっ……うん」
俺はついこの言葉に対して首を縦に振ると、彼女はクスッと笑い、続けて小声で言った。
「ねぇ、放課後空いてる?」
「えっ、あっ、うん」
「じゃあさ、放課後にスタバ行かない? そこで話、聞かせてよ?」
「いや、でも……」
「大丈夫、誰にも言わないから!」
どうしても俺のことを知りたい日向さん。
別に彼女には隠すつもりが無かったから、俺はすんなりと「わかった」と返事した。
「二人だけの秘密、だね?」
ニカッとした口に人差し指を当て、上目遣いで彼女は言った。
可愛い。こんなの、『可愛い』の暴力だ。
それに『二人だけの秘密』という言葉が何とも言えないくらいくすぐったい。
(いや、月坂も関わってるし……実際は三人だよな? まぁ、いいや!)
「俺と日向さんの二人だけの秘密にしたい」「月坂のことを忘れたい」という心が、
「ふふっ。じゃあ放課後、楽しみにしてるね?」
コミュ障陰キャの俺は、素晴らしいくらい自然な流れで隣の席の美少女に放課後スタバに誘われた。しかも、二人きり。もうこれ、放課後デートですよね?
日向さんとの話が終わり、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、俺はニヤニヤしたい気持ちをなんとか抑えて、授業に臨んだ。
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