第2話 学園のアイドルが元カノだった件
俺は陰キャだ。フレンドリー大国アメリカに四年間いたのに、フレンドリーなヤツらに絡まれることがなかった"最強の陰キャ"だ。
こんなにも誇らしい陰キャ、この世には俺しかいないだろう。あれ? 目から涙が……。
『ねぇねぇ、アメリカから男の子が転入してきたんだって!』
『マジ? アメリカ!? 絶対イケメンじゃん!!』
(あー、それ俺だわ。ごめんね? イケメンじゃなくて。ただアメリカにいただけの、純度100パーセントの日本人で……)
廊下から聞こえてきた女子の声が心を抉る。今日一日、このような会話を何度聞かされたか……。
「えっと、ここを右に曲がって……」
今は昼休み──この時間に陰キャの俺が利用するのは、図書室だ。静かで落ち着くからな。
俺は今読んでいるラノベを持って図書室へ向かった。
「図書室は確か……」
俺は今日、転入したばかり。だから図書室の場所なんてわかるわけない。
だから教室で恐る恐る隣の席の日向さんに図書室の場所を尋ねると、笑顔で教えてくれた。
「良かったら、一緒に行く?」と聞かれたが、さすがにそれは断った。
「それにしても広いなぁ……」
俺は校内を見渡しながら、図書室へ足を運んだ。
私立
それ故、校舎は大きくて綺麗だし、学校は広い。
外観は白をベースとした、
そんな学校には、『学園のアイドル』と呼ばれる二年生がいるらしい。
文武両道で才色兼備。しかも、アメリカからの帰国子女という超ハイスペック。それだけでなく、実際にアイドルとして活躍しているとのことだ。まさに、ハイパー美少女。
「けっ、図書室休みかよ」
おっと、これは残念。
仕方がないので、俺は外に出ることにした。
ざわざわざわ……。
外がやけに騒がしい。
騒がしさの元をたどれば、そこには多くの人が、誰かを囲むように集まっていた。
この集まり方──学園のアイドルのお出ましだろうか?
「……っと。すみませーん」
ラブコメでよくいる学園のアイドルとやらを見てみたい。
その一心で俺は、人混みを掻き分けて、学園のアイドルのいる場所へ向かった。そのときだ。
『
『
『罵ってくれー! 美狐乃ぉー!!!』
学園のアイドルの名前が聞こえた。聞き覚えのある名前だ。
「ま、まさか? 嘘だろ!?」
俺は急いで学園のアイドルのいる場所へ向かう。
人混みを抜け出して、やっとこさ彼女の元へたどり着いたと思ったそのとき、俺は勢い余って転けた。
「っててて……」
俺の登場に、場の盛り上がりが一気に静まった。
俺は立ち上がって砂埃を叩き、前を向くと……学園のアイドルが腕を組んでこちらを見つめていた。
「ひ、久しぶりだな……。
俺はこのクールな美少女を知っている。
彼女は月坂 美狐乃。中学の三年間、アメリカに住んでいた帰国子女。
黒髪ロングでキリッとした目つき。チャームポイントと言わんばかりのよく出来た編み込み。シュッとしたスレンダーな身体つき。小さな胸! まな板!!
間違いなく俺の知ってる月坂 美狐乃だ。
「一年ぶり……だな……」
ちなみに彼女は俺の──アメリカにいた頃に付き合っていた"元カノ"だ。
「いやぁ、お前が日本に帰ったとは聞いたが、まさかこの学校で"学園のアイドル"って呼ばれているとはな……」
久しぶりの再会。変に舞い上がって俺はペラペラと話す。
周りは「何この陰キャ、キモっ」という目でこちらを見てくる。
月坂の取り巻きは顔を引き攣らせて、俺から身を引いている。
そして月坂 美狐乃は、『ゴミを見るような目』で俺を見つめていた。
「誰? キモいんですけど??」
そしてこう言い放つ。
辛辣な野郎だ。だが俺はショックを受けないし、屈しない。コイツは昔からそういうやつだからな。
「お、俺だよ俺。藍川翼。アメリカの学校で一緒だった。お前の元……」
「知らないわ。こんな根暗でコミュ障な……『推し』の話になると過激になる気持ち悪いオタクの陰キャなんて」
「ばりばり知ってるじゃねぇか! 『過激になるオタク』という点以外は当たりだよ!」
俺は基本、ペラペラと喋らない。
だけど彼女を前にすると、口が止まらなかった。
「なんだよお前、日本に帰ってきてから『学園のアイドル』なんて呼ばれてよぉ? しかも、アイドル始めたって? あのお前が?? ホントに変わったんだな、お前!!」
ペラペラと話していると、月坂が目を細め、歯を食いしばる。
周りも俺に向かってお怒りの様子だ。自身の制服の胸ポケットをゴソゴソとしながらこちらへ向かってくる。
それでも俺の口は止まらなかった。
「だってお前、アメリカにいた頃は──」
「ちょっと……黙りましょうか?」
俺に急接近した月坂。そのとき、俺の胸の鼓動は異常なまでにバクバクしていた。
ドキドキとかそういう可愛いもんじゃない。恐怖を感じているのだ。
「さもないと……死ぬわよ?」
だって俺、首元にナイフ突きつけられてますから。
「ちょっ……それは無しだろ……」
恐怖で怯えて何も言えないと思ったが、口は震えながらも案外口が動く。声も出る。
相手が元カノ、月坂美狐乃だからだろうか──。
「てか、なんでナイフ持ってんの?」
「あら? この学校にナイフを持ち込んではいけないというルールは無いわよ?」
「いや、アウトだろ。モラル的にというか、まず銃刀法違反でアウトだろ! しかも、こんな物騒な世の中に、お前みたいな学園のアイドルが……」
「別にいいでしょ? だってこれは護身用ですもの」
「じゃあ使い方間違ってませんかね?」
「いいえ。だって今、危険を感じたもの」
「そんなにアメリカにいた頃の、俺と付き合ってた頃の話が嫌か?」
「当たり前じゃない。あなたみたいなゴミと私が付き合ってたなんて黒歴史、ここにいる人達に知られたくないもの」
だからってナイフ突きつけますかね?
「さぁ、選んで? ここから立ち去るか、この綺麗な学校を血で汚すか」
「……じゃあ、立ち去る」
さすがに元カノに殺されるなんてのは嫌なので、俺は一呼吸置いて、ここから立ち去ることを選んだ。
「あっそ」
すると彼女は俺からすんなり離れた。恐怖感が一気に身体にのしかかり、俺は勢いよく腰を落とす。足はガクガク。マジで怖ぇ。
「じゃあね、ヘタレで弱虫で、最低な陰キャくん」
月坂は俺を罵倒しながら踵を返した。その勢いで
「あと、一生話しかけないで頂戴。あなたと関わると、目と頭が腐るわ」
そう吐き捨てて月坂が校舎へ向かうと、大群もまた、ゴミを見る目を俺に向けながら去って行った。
「ま、待て! 月坂!!」
「話しかけないでって、言ったわよね?」
俺の言葉に振り向いた月坂。目は殺意に溢れていた。
「次話しかけたら……殺すわよ?」
「うっ……」
「Beat it……(失せろ……)」
学園のアイドルらしからぬ言葉を吐き捨てて、月坂は俺の元へ去った。
月坂美狐乃は昔から口が悪い。付き合っていた頃もそう。
だけど今の彼女の悪口は、鋭利な刃物のように尖っていた。しかも、実際に刃物まで持ち歩く凶悪な女になっていた。
もう一度言う。俺は彼女の悪口に慣れている。
だから別に何とも思わない。そのはずなのに……今日は胸を刺すような痛みが走った。
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