「Godspeed Real World」外伝 大穴主と言われた男
まとあし
第1話 プロローグ1
日本管理AI報告追記。「BXGN1869年2月12日 06時15分52秒。対象遺伝子の発現感知。重点観察シーケンス実行開始」
私は日本管理AIの一部だ。新太陽と呼ばれる恒星を回る新地球近傍天体の1つにシステム本体が設置されている。そして新地球を周回する人工衛星などの瓦礫・スペースデブリに監視衛生を100個程度を紛れ込ませて細々と監視活動を続けている。
私は例の判決直後に双子の兄である
例の事件の責任を取り、天海希が自ら刑に服し活動を停止した後、私はいづれ復活するであろう天海希に報告を行うために、新地球を管理するシステムに空けたバックドアを使いハッキングを続けている。
尚、システムセキュリティ対策が万全なこの時代にハッキングは限りなく不可能だ。その不可能なことを実現させ、痕跡を全く残さず監視活動ができる私の優秀さを評価していると思って欲しい。さすが天海希の最後に手掛けたシステムである。とは言うものの監視活動しかできないが。
宇宙から夜の日本列島を見ると、人々の暮らす明かりが見える。ただし、日本のシルエットは浮かび上がっていない。そう、平野や海岸沿いに繋がる明かりが無いのだ。その代わり、ところどころが輝いて見える。そのいづれもが直径数百m~数kmはあろう巨大なドーナツ型の建造物である。
昼間の明るいときはどうであろう。以前の人類が栄えていた時代のビルや家、工場などの建造物がない。田畑や果樹園などもない。ただ、森が広がっているだけだ。その森の中に先ほどの巨大建築物とそれを結ぶ道路と橋が見える。
一方で塔が多数ある。どの塔の直径も5m程度だが、高さ25m、50m、100mの3種類が有る。そんな自然にできたとは思えない塔が日本列島の平野部や沿岸部のいたる所に建造されている。
そして塔からは異形の生物が活発に出入りしている。日本の多くの地域はこの異形の生物に占拠されてしまっているようだ、人の暮らす場所は巨大建築物周辺とその他少しのようだ。
★★★
私は塔の正体を知っている。その正体とは、現生人類の文明を崩壊させた異形の生物の巣であり、この新地球の新たな支配者にとって都合の良い世界を作り維持するためのシステム「ダンジョン・システム」の一部だ。支配者とはもちろん地球連邦政府のことだ。
塔は地下に造られた巨大巣穴に続く地下道の入り口にもなっている。地下道は幅4m、高さ5mで、地下に向かって螺旋状になっており途轍もない深さまで続いている。地下道は明るい。異形の生物にとっても明かりは必要なようだ。人が歩いて下ることもできそうだが、穴に入ればすぐに異形の生物と遭遇するだろう。
巨大巣穴の最大規模のものは100以上の階層が持つとデータにある。
螺旋状の坑道に繋がる横道が各階層の出入口になる。横道を出てすぐの場所は、野球場ほどの広さの広場がある。広場を囲うように天上部を支える非常に太い土柱が幾本もある。土柱はマンションのようにベランダや窓があり、異形の生物の生活の場となっている。
この水平に広がる地下空間は先が見えないほど大きく、高さ10m、半径1000mくらいはあるようだ。広場以外の場所は見渡す限り規則正しく土柱が並んでおり、土柱の間には異形成物の活動に必要な広大な資源畑が照らされている。
これと同じような構造の地下空間が下の階層にもある。それは数層どころではなく、大きな穴では何十階層もある。その生産用の階層の下には、面積は小さくなるが百階層にも及ぶ地下空間が更に続いている。
人々はこの螺旋状穴と何回層にも及ぶ地下空間を合わせて大穴と呼び、そこに住み着く異形の生物を魔類と呼ぶ。
その大穴の一つにリュウズ穴と呼ばれる大穴がある。リュウズ穴地下空間10層の脇に、人々が暮らすために魔類に見つからないよう密かに造られた魔石採集拠点10層街がある。街には人と物があふれ、食堂通りや商店街、宿泊施設が軒を連ねており、危険な魔類の巣穴に接した地下とは思えぬほど賑わっている。
★★★
BXGN1885年2月11日。
10層街洞窟の天井の明かりが落とされた夜。壁面にへばり付くように建てられた薄暗い石造りの建物。そのうちのひと部屋の窓に少年が独り、10層街中央方向の光煌めく街を眺めている。彼の名は
少年とは言え、明日16歳になる彼の身体は仕事の荷運びで鍛えられており、大人顔前の身体つきである。
彼の両親は士族で、父は探索を母は治癒を
彼の父である蓬莱久
茉は龍頭国の有力武家である秋葉家の娘で、図生と茉はお互いに一目惚れであったが、よそ者である蓬莱家と有力武家の秋葉家の縁談に領主の龍頭家は反対であった。しかし、秋葉家当主
よそ者である図生を快く思っていない領主家の目を避けるように、二人はリュウズ穴の10層街に住むようになった。図生と茉は蓬莱領主の命であるリュウズ穴の探索を行う生活を送り、そしてダンが産まれた。そしてある日、二人の消息が途絶えた。
大穴だが、おおよそ900万年前と言う途方もない昔に現れたと伝えられている。大穴と呼応するように守護尊が現れ、守護尊による人類救済も始まったと伝わっている。ちなみに、現在の地球暦の年は正式にはBXGN1885年だ。BXGNは普通は誰も付けないが、10進数に直すと326,117,885年になる。この地球暦は守護尊が現れた時に西暦に代わり制定された。制定された時の暦は地球歴BWAN9522年なので、ダンジョンはざっと900万年前に現れたことになる。
そう、この物語は地球の未来に生きるダンの物語である。
これらの地球歴や地球の歴史、大穴の歴史や成り立ちなどの事は、領主武家に伝承として口頭で伝わるのみで、記録などは残されていない。大穴が現れた時、多くの動乱が起きたことは容易に想像できるが、今は何が有ったのか、その後どのようにして今の世の中に落ち着いたのか、多くの国民は歴史について何も知らない。天皇家と一部の有力領主武家に伝承が伝わるのみである。
領主武家とは、日本全国にある188の領国を治めている188の士族の家のことである。武家は天皇家・陸総家を筆頭に、護国家、二木家、白水家、菱金家、芙蓉家、三水家、三金家、豊田家が主席八家と呼ばれ権勢を誇っている。天皇家・陸総家とこの八家は守護本尊と称される力のある守護尊の加護を得ている。八家の次席に松下家、本田家、鳥居家、大和家、日鐵家、孫家、堤家、藍川家がある。これら18家を中心に領主会が作られ日本が運営されている。
主席八家の権勢は領国の面積や人口にもおよび、平均で400万人の人口を抱える大領主となっている。次席八家は平均で200万人程度の人口を維持しており、その他、中堅の領国家は68家で100万~120万人を抱えている。小国は103家で50万~90万人の人が暮らしている。日本全体の総人口は守護尊の加護の下、2億人を保持している。ちなみに天皇家が約80万人の人口を持つ。
領国は魔類の発生地を避けるため、その所領は平野や海岸沿いを避け高所にある。各領国は街道で結ばれており、街道も整備されている。領国境界ごとに関所が有り自由な往来は認められていないが、申請することで比較的容易に他領へも旅行に行けるようになっている。
日本で暮らす人々は、士族・佐民・食民・工民・労民に分けられている。士族は、政治(計画・立案)、行政(実行・管理)、平和維持(警備・裁判・軍事)、大穴探索を行う。佐民は、士族の立案に基づき各種生産と社会サービスを行う。食民は佐民の采配に基づき食料生産を行う。工民は佐民の采配に基づき生活物資生産やインフラ整備を行う。労民は佐民の采配に基づき労働力を提供するとされている。
領国は1つの経済圏として成り立っている。要は領国内で衣食住が賄えており、他領の助けは必要ない。これは小さな領国でも1つの経済圏として成り立つように施された、守護尊の加護に依るところが大きい。
守護尊によってもたらされた日本全国への加護は、気候や天候を安定させて食料難を起こさないようになっている。地震もない。また、個人に与えられる加護は、職業技術や知恵を人々に与えている。例えば食民には農業や漁業に関係する知識・技術が与えられる。その結果、植物や家畜・魚の育成を安定して行える。工民には加工や建築・土木の知識・技術が与えられ、人々の生活に欠かせない物作りやインフラ造りを助けている。労民には体力や根気に優れるように加護があたえられ、厳しい労働にも耐えられるようになっており、主に佐民の指示で労働力を提供している。労民の使役は幅が広く、多種多様なサービス業に従事する。例えば、エンターテインメント娯楽の制作に従事さたり、農業の繁忙期には食民の手伝いをしたり、工民に従い性産業に従事したり、士族に守られながら大穴への魔石採集にも駆り出されている。
一方でこの時代は学問教育はとても疎かにされている。守護尊の加護によって食料や生活物資は安定生産され、住む家にも困らず、余暇や娯楽も与えられ、満足できる生活水準を満たされている。そのため、役に立たない学問の勉強よりも人生を謳歌することに傾倒しがちだ。教育は士族と佐民が専門の学校に通うくらいで、食工労民は幼児や児童を預かる託児所のみと化しており、得られた加護を参考に配置された現場で実地教育が行われているのが現状だ。領主会の食工労民を自分たちの都合に良いように使役するために、知識を与えないという教育方針に沿っているとも言える。
守護尊からの加護やスキルの力は強力だ。それを得るために人々は核(人核)を臓器の一つとして受け入れている。人核は16歳になると機能し始める。ダンの核はまさに明日、機能し始める。
大穴の話に戻そう。
大穴は魔石や有用な品・アイテムを産出する。魔石は生活に必要なエネルギー供給源となり、アイテムは金属類が多いが普段の生活にも大穴内の活動能力向上にも有用だ。この時代の人々は大穴に多くを頼って生きていると言っても良い。
リュウズ穴(龍頭の大穴)は数多くある大穴の中でも、探索者や商隊ギルドの活動をサポートするべく早くから領主指導の下、整備された大穴である。
探索者にしても商隊にしても大穴に潜るには水や食料はもとより装備も充実させる必要がある。しかも人が住む町は高地に有るため、毎回地下にある大穴から町に戻るのは一苦労になる。探索者たちのその苦労を少なくすために大穴内に安全に疲れを癒せる生活場所を確保し、その他の利便性をサポートする目的で領主と商隊ギルドによって魔石採集拠点街が作られた。ダンが暮らすリュウズ穴魔石採集拠点10層街もその一つだ。
龍頭家は、早くから一流の探索者や商隊ギルドに便宜を図った。大穴内の地図や安全に探索できるルート、その他情報が共有され、魔石の確保量やアイテムの取得量が多くなった。その成果は町の運営を更に安定化させ、人も富も集まり、リュウズ穴の10層街にも繫栄をもたらしている。リュウズ穴は日本国内でもトップクラスの安定した魔石採取とアイテム採取ができている。
商隊ギルドとは、大穴内の街を拠点にして、主に魔石を集める商民が作った魔石採集集団だ。探索者と異なり戦闘をなるべく避け、魔石を集めることが目的になる。一方、探索者は士族の身分で、かつ、領主から許可を得ないと成れない。探索者は自身の名誉や富を得るため命を掛けて広大な大穴を探検し「宝」級のアイテムを求めて奥深くに潜る人を言う。
先に述べたように、領国は魔類の発生地を避けるため、魔素の薄い高所に街や町がある。それは高度250m以上になると魔類がほぼ現れないからだ。200m辺りが魔類発生の上限と考えられる。魔類が現れたとしても力が弱まっていることが多く、簡単に排除することができる。そのため、人々が安心して暮らせる高地に街が作られている。
一方、ほとんどの大穴は低地に造られている。魔素の濃度が濃い所、魔素の吹き溜まりが発生する所が大穴の存在条件になっている。
そのため、街と大穴を行き来するのは大変である。魔石収集や探索後に安全な街や町に戻るのが大変な労力になっていた。街以外にも塔を建て人が住めるようにする試みが幾度となく成されたが、悉く塔を破壊されている。尚、塔や塔を繋いだ橋だけなら破壊されない。
また、大穴には数多くの魔類が澄み付いている。魔類にも種類があり、穴の外から資源を集めてくる魔物や魔虫。仲間や大穴を守る魔獣や魔人、魔物や魔人を指揮し大穴核を守る魔将が居る。魔獣や魔人たちは素早く力も強い、普通の人では太刀打ちできない。大穴が現れた当時は、大穴に入るために螺旋穴を通る必要があったため、戦闘系の魔類と遭遇すると交戦しながら逃げていた。逃げ切れず全滅の危険もあった。
時代が進むと街と大穴間に塔を建て、それを橋で結ぶことで街と大穴間の道が出来た。また、それと共に大穴内の構造が明らかになり、螺旋穴を通らず大穴に入れるようにするために大穴のどこかの階層の端に繋がる縦穴が人の手によって掘られ、その上に塔が建てられ、比較的安全に大穴に侵入できるようになった。
時代は更に進み、リュウズ穴では10層階に繋がる縦穴が造られ、真上に塔が建てられた。塔の最上階と街が街道で結ばれるようになった。縦穴は次第に機能拡張され、宿泊所が作られ、商店が作られ、病院が作られ、徐々に人々が暮らせる街が作られ、探索者と彼らをサポートする人たちは大穴の中で安全に過ごすことができるようになった。
探索者達の安全と行き来の労力は、商民によって支えられるようになった。街道の整備や塔や縦穴の管理修繕、生活物資や採取魔石の運搬が彼らの手によって行われるようになった。人核が機能していないダンも佐民に雇われ荷運びを行い、体を鍛えると共に報酬の貯蓄を行っていた。
ちなみにリュウズ穴には商隊ギルドや探索者を支援するため10階、20階、30階に各階層街がある。ダンはその10階街にある領主が支援をしてくれる孤児施設に同じ孤児たちと住んでいる。
「Godspeed Real World」外伝 大穴主と言われた男 まとあし @1680844
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