第66話 リン

まどろみから徐々に目がさえてゆく。

ここはどこだっけ?


ああ、亜空間倉庫に作った寝室だ。

そう言えば昨夜は結構大変だったな。

おかげで随分と寝てしまったようだ。


そこまで考えてやっと俺は誰かを抱き枕にしていることに気が付く。

あれっ、マリーは連れてきてないよな?


マリーとは二日に一度は添い寝をしている。

そして大体の朝は俺がマリーをぬいぐるみのように抱きかかえながら目が覚めるんだ。


でも、マリーにしては大きいな。

身体もだが、俺が背中越しに握りしめている物もだ。

それも、この手触りだと直接握りしめているよな。


俺が固まっていると、女の身体が動きこちらを向く。


「おはよう、オイゲン君」


そこにあるのは眩しいばかりのリンの笑顔だ。


「あ、ああ、おはよう」


俺の返事に何が可笑しいのかリンがくすくすと笑う。


「オイゲン君、もうお昼ですよ。

お寝坊さんですね」


なに、このお姉さんの余裕。


「寝坊なのはリンも同じだろう」


俺は子ども扱いされたようで少し拗ねてみる。


「私は起きていましたよ、でもオイゲン君が気持ちよく寝ているし。

それに私のおっぱいを掴んで離してくれないのでベットから出れなかったんですよ」


「うわっ」


今更のように俺は驚いてリンのおっぱいから手をはなす。


「やん、オイゲン君は強く握りしめすぎですよ」


どうやら驚いたときに手に力が入って強く握りしめてしまったようだ。


「それで、オイゲン君、私のおっぱいを握りしめて幸せだったのかしら」


なんだよ、昨日までは俺の名前を呼ぶだけで緊張していたはずなのに?

なんでリンはこんなに余裕なんだ?


そこまで考えて記憶が戻ってくる。

俺、二度寝してるわ。


一度目の目覚めの時に昨日の緊張と目の前にある女の身体でタガが外れたんだ。

やっちゃたよ、リンを抱いてしまったわ。


「オイゲン君、私のような汚れた身体を求めてくれたありがとう。

私、ずっと不安だったの。

こんな汚れた私、オイゲン君には邪魔な存在なんじゃないかって。

いづれは出て行けと言われるんじゃないかって。

だから、ありがとうございます」


どうしよう、俺は自分の欲望をリンの身体にぶつけただけなのに。

リンの余りのいじらしさに俺はリンを強く抱きしめる。


「バカだな、薔薇の騎士たちは俺の物だ、決して手放したりしない。

リンだってだ。

こんなにかわいい子なんだから。

むしろ、俺が独り占めして良いのかな?」


俺の腕の中でリンの身体が少し震えている。


「オイゲン君、リンはオイゲン君の物なんだよ。

オイゲン君だけの物なんだよ。

だから、ずっとオイゲン君の側においてください」


そうだよな、薔薇の騎士達はみんな不安なんだろう。

みんな自分に負い目があるしな。


「リン、リンがいたい限りは俺の側にいてくれ。

もちろん、束縛はしない。

離れたくなった時は好きにして良いんだ」


「オイゲン君は優しいのか冷たいのか良く判らないよ。

そこはずっと俺の側にいるんだって言うところだよ」


ごめんね、リン、そこは俺の狡い所なんだ。


「でも良いのか、おれの側には大勢の女がいるぞ。

だから俺がリンを独占してもリンは俺を独占はできないぞ。

そんな関係は辛くないか?」


「そんなことないよ。

私のお父様も何人も妻を持っていたし。

強い男には複数の女がいるのが当たり前だもん。

私はオイゲン君に救われてからずっとオイゲン君の事を見つめていた。

でもそれは私だけじゃない、薔薇の騎士たちはみんな同じ。

だからオイゲン君を独り占めできるなんて考えたこともないんだから」


「そうか、リン、出来るだけ大事にするから宜しくな」


「うん、うれしい、ありがとう」


リンが大輪が咲いたような笑顔で俺に微笑んでくれる。


そして、俺は自分を無理に律していた何かから解放されたようだ。


「なあ、オイゲン、悪いんだけどそろそろ始めないか」


「ひゃああ」


リンが驚いて毛布に潜り込む.


「なあ、サミー少しは遠慮しろよ」


「遠慮、遠慮ならいっぱいしたぞ。

朝から始めた2人の邪魔をしないでここまで黙って待っていたんだからな」


まあ、サミーらしいか。


「それに、そろそろ尋問をして今後の方針を決めないとオイゲンが一晩中走って稼いだアドバンテージが無くなるぞ」


そうだ、呑気に寝ている場合じゃなかったんだ。

俺は急いで飛び起きる.


「わっ、ちょっと、サミー、見るな、見るなよ」


裸だったわ。

そりゃそうだ。

俺は焦って服を着たよ。


「オイゲン、捕虜の所に行くぞ。

リンもさっさと起きて服をきてくれ」


俺達は毛布に潜っているリンを置いて捕虜の元へと進む.

これって、リンに申し訳ないよね。


「なあ、サミー、もう少しやり方があったんじゃないか」


「リンの事か、確かに余韻は大事だが、事は急を要するんだ。

リンのフォローは後でオイゲンがしっかりとすれば良いさ」


「オ、オイゲン君、気にしなくていいから。

私、すっごく幸せだから」


手早く服を着たリンが追い付いてくる。

本当は身だしなみを整えたいところだろうに、歩きながら手櫛で髪を整えている。

少し痛そうなのに頑張って付いてくるな。


ゴメン!


でもリンも状況を理解しているんだな。


「主様、捕虜はまだ起きていません」


捕虜の番は銀がしてくれていたんだ。

サミーの用意した眠り薬は随分と強力なんだな。


「さてと、どいつを起こして尋問するかなんだが...」


おれは縛られたまま転がっている五人を見比べるが、特に指揮官のような者はいないようだ。


だとすれば、どいつを尋問しても同じか。

俺は一番手前の男を起こそうと近づく。


「オイゲン君、ちょっと待って」


そこにリンが駆け寄ってきてひとりの男に顔を近づける。


「オイゲン君、この男はお父様の元部下です。

この男を起こしてくれませんか」


今回リンを連れてきたのはリンの父親の所領がポッズの隣だったからだ。

なにかと便利だろうとは思っていたんだがこんな所で知り合いに会うとはな。


「判った、サミー、そいつを起こしてくれ」


サミーは男に近づくと懐から取り出した薬を男の口から数滴たらす。

しばらく男の様子をうかがっていると


「ごほっ、ごほ、ごほ」


男の意識が戻ってくる。

ぼんやりとした目で俺達を見回しているが急に顔が険しくなる。

状況をやっと認識したようだな。


「おっ、お前たち、俺達にこんなことをしてタダで済むと思っているのか」


バカな奴だ。

盗賊のふりをせずに兵士の地を丸出しじゃないか。


「へええ、怖い、怖い、でもこんな僻地にいる盗賊なんて大した人数でもないだろうし俺達をどうにかできるとは思えないがな」


男の顔が朱に染まる。

俺が盗賊呼ばわりしたのが兵士の矜持を傷つけたようだな。


「ふざけるな、だれが盗賊だ」


「盗賊だろう、なんだあの村の惨状は、お前たちが村人を殺して財産を強奪したんだろう」


「はん、あんな寂れた村の財産などなんの価値が有る!

俺達は帝国の兵士としてあの村を併合したんだ。

お前達は栄光ある帝国に楯突いたんだぞ

精々覚悟することだな」


こいつはバカだ、単細胞だ。


「お前の言っていることは良く判らんな。

お前達は王国と帝国が戦争になるかもしれないリスクを負って、価値の無い寂れた村を滅ぼしたのか」


「ふん、平民風情には判らんよ。

あの村の持つ戦略的価値は帝国が王国に侵攻する際に判ることだ。

今はその時に備えて邪魔な雑草を刈り取っているだけだがな」


「お貴族様は大したもんだ!

俺達平民など雑草か」


「当たり前だ、平民の価値などそんなもんだ」


「あら、ギーン、貴方いつから貴族になったのかしら」


リンの冷たい声。

へええ、こいつの名前はギーンなんだな。


「なんだお前は、俺様を呼び捨てにするとは。

死にたいのか」


「ふ~ん、お父様に叱られていつも泣いていたギーンが随分と言うようになったのね」


「はああ、えっ、えええ、あ、貴方はリンお嬢様。

いや、リンお嬢様は先の王国との戦で死んだはず...」


「ごめんね、生きてたんだ。

だから帝国で起きた政変もその結果で我が家がどうなったかも知っているわ。

でも、お父様の家来のギーンがなんでこんなところで盗賊紛いの事をしているのかしら?」


ギーンの奴、リンを見て明らかにぶるっている。

なにか負い目があるようだな。


「お嬢様、いや、お前は反逆者の娘だ。

お前の一族は罪を償うために死を賜るか奴隷落ちするかしてことごとく成敗されている。

お前も一緒だ、大人しく許しを請え」


「あら、ギーンのくせに生意気ね。

貴方の主人が誰か思い出させてあげるわよ」


なぜか、ギーンが怯えだす。


「い、いや、ふざけるな、だれがお前なんかに」


「うふふふ、ギーンったら、少しは思い出したのね」


リンの目が妖しく光る。


「みなさん、ここは私に任せていただけますか。

必用な情報は吐かせますので」


なんだかリンのキャラが変わった気がするが、あれだけ自信満々なんだ。

任せてみるか。


「判ったよ、ここはリンに任せるよ」


俺達はその場を離れると椅子とテーブルをおいたスペースでお茶を飲み始める。

本当は食事をしたいんだが、男の悲鳴を聞きながらでは食欲は進まないんだよね。


なんだろう、リンとギーンは子供のころにどんな関係だったんだろう。

最初は泣きわめくような感じだったのにいつの間にかリン女王様になってるし。


うわあ、嫌なことが聞こえてくる。

それはヤバいだろう、絶対に痛い、恥ずかしい。


なのに、どうしてだ、ギーンが懇願している。

そんなところに入れられたいのか?


もっとしてくださいと懇願するギーンにリンは色々と質問をする。

リン女王様に満足いただくためにギーンは必至だ。

何度も懇願して何でも話してしまうみたいだ。


ひときわ大きな悲鳴がギーンから上がる。

そして、リン女王様に何度も忠誠を誓うギーンの声。

本当に2人の関係が解らんよ?

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