第67話 錬金都市ポッズに到着
「さてと、リンはギーンから情報を引き出せたのかな?」
俺は自信に満ちたリンの顔を思い出し、リンがギーンから情報を引き出せたと確信している自分に気づく。
リンも逞しくなったもんだ。
そんな事を思ってしまう。
「主様、様子を見てきます」
僕の呟きを銀が拾ってリンとギーンの様子を見に行ってくれる。
リンがギーンを尋問している区画に銀は入ったかと思うと戻ってくる。
「主様、尋問は完了しています」
リンと話す間もなく踵を返してきた銀が確信をもって尋問が完了していると言うのに疑問を感じるが、銀が嘘を言う事も無いと思い返す。
「そうか、では話を聞きに行くか」
俺は腰を上げてリンとギーンが居る区画に入る。
そして、リンとギーンを見た瞬間、銀が言っているように尋問は終わっていると確信を持ってしまう。
「リン、ギーンから情報は取れたか」
「ハイ、オイゲン君、ギーンは良い子ですから素直に全部話してくれました」
素直にねえ、まあ話すんだろうな。
俺はリンの足元にうずくまり一心にリンの足の指を舐めているギーンの姿を見て納得してしまう。
そんな俺の視線に気づいたのだろう。
「ギーン、おやめ、ステイ、ステイよ」
リンの一言でギーンはリンの足の指を舐めるのを辞めると犬の伏せのような姿勢を取る。
完全にリンに飼いならされてるな。
「それでリン、状況はどうだ」
「先ずは村からポッズまでの道中の状況ですが帝国の軍隊はほぼ撤収したようです」
「撤収?」
「ハイ、当初は要所要所に兵が展開していたようですが、急に引き払ったようです。
確かにあの村一帯に兵を置けば、後背に王国の兵の侵攻はできませんので戦術としては有りかと思います」
「でも、占拠した村は他にもあるだろう?
村民たちを押さえるにも兵は必要ではないか?」
「それなのですが、占領地の王国の国民は全て帝国に連れていかれたようです」
「そうか、無人の野であれば兵士を無理に置く必要もないか。
まあ、俺達がポッズに向かうには好都合だが兵の動きは気になるな」
「それですが、兵の動員は帝国全土で大規模に行われているようです。
ポッズにも最低限の兵士しか残っていないとギーンが言っていました」
「それは...」
「なあ、主様、帝国は本気で王国に進攻しようとしているのか」
銀が俺の懸念を声にする。
「そうだな、そう考えるのが自然だろう」
「そんな、それでは急いで領地に戻らないとまずいのではないか」
サミーが心配そうに声をあげる。
「ポッズから兵を抜いているんだ。
帝国の侵攻ルートは前回と同じだろう。
その侵攻ルートなら父さまの領地は後背地になる。
直接帝国の侵攻を受けることは無いよ」
「そうなのか」
「ああ、もっとも王都が落ちれば話は別だ。
だが、それは王国の滅亡を意味するからな。
父さまの領地どころの話ではなくなるよ」
「それでは、予定通りにポッズに向かうのか」
「ポッズまでの道のりに帝国の兵が居ないことが判ったんだ。
この機会を逃すのは愚かだろう。
だから、ポッズに向かうよ」
俺達はギーンに先導されてポッズへ向かう事にした。
俺的にはギーンの裏切りが心配だったのだが、リンが言うには元々ギーンはリンに夢中だったようだ。
そこに奇跡的な再会と大人の色香を纏うようになったリンの姿が止めとなり、リンに隷属してしまったのだ。
もはやリンのワンコと化したギーンがリンを裏切ることは無い。
リンに自信をもってそう言われ、俺はそれを信じることにしたのだ。
実際、ポッズに向けて街道を歩き続けても王国の兵に出くわすことは無かった。
なにしろ、国境の関所まで無人になっているのだ。
まあ、元々この関所を通る旅人は少なかったのに、今では道を封鎖した関係でこの関所を通る人間は皆無の様だ。
そして俺達はギーンに先導され、5日でポッズが見える場所まで無事にたどり着いたのだ。
「なあリン、ポッズに入るのには流石に門兵のチェックが入るよな。
リンの身分証で俺達全員が入れると思うか」
当初の予定では帝国の冒険者の認識票を持っているリンをリーダとして、銀とサミーの三人でパーティーを組んだ冒険者が俺を護衛してポッズに来たことにするつもりだったのだ。
俺の役どころは商家のボンボン、ポッズには商取引を開始するための下見と言う名の物見遊山。
そんな感じだ。
「ギーンがいるからギーンに付いて入るというプランもあるかと思うんだよな」
「オイゲン、それは止めた方が良いのではないか。
最前線から兵が一人で女づれで戻るのは不自然すぎる」
「オイゲン君、少し袖の下を渡せば簡単に入れると思うから、無理にギーンを使う必要は無いわよ」
リンは賄賂を渡せば簡単にポッズに入れるって言うんだよな。
「ギーンにも確認したけど、ポッズは錬金都市だから商人の往来は結構多いの。
それに商人は金を持ってるから賄賂を取って門を通すのは門兵のちょっとした小遣い稼ぎとして黙認されているようよ」
なら、問題も無いか。
商人として堂々とポッズに入るとしよう。
実際、ポッズの門にたどり着くと商人たちで行列ができている。
どうやら、帝国で武器や防具の値段が高騰しているらしい。
そのせいで大勢の商人がポッズまで直接商品の買い付けに来ている様だ。
そして、多くの商人を捌くため、チェックはよりなおざりになっている。
その中でも、さりげなく袖の下を渡す商人はほぼノーチェックで通過出来ている。
「お前たちはポッズになんの目的で来たんだ」
女子供だけの俺達を見る兵士は少し高圧的だ。
ああ、ギーンは亜空間倉庫に縛って放り込んでいるよ。
「はい、父に言われて武器の買い付けに来ました。
僕に店を継ぐ才覚があるかのテストなんです」
「そうか、それにしては女ばかり3人も連れての旅とか随分と呑気じゃないか」
兵士は少しギラついた目でリン達3人を見つめている。
「兵士様、私達はギルドに登録した冒険者です。
坊ちゃまの護衛の任を十分に果たす力が有ります」
リンがそう言って冒険者の資格が判る認識票を兵士に見せる。
「ふ~ん、悪かったな。
確かに力はある様だ」
そのタイミングでサミーが周りに気づかれないように兵士に賄賂を差し出す。
「よし、入ってよいぞ」
賄賂が効いたのか、俺達はすぐにポッズに入る許可を得た。
簡単に入領記録に署名してひとり銀貨一枚の入領税を払えばもうポッズだ。
「へえ、ここがポッズか」
錬金都市として名が知れているポッズはオーランドと比べるのもおこがましい位に大きく賑わっている街だった。
「凄いな、こんなに多くの家が有るんだ。それに街の中なのに立派な道が通っている。
なによりも、臭くない」
これだけ大きな街で異臭がしないのは大したものだ。
「オイゲン君、そこに気づくのは立派だよ。
元々ポッズは錬金都市だからね、物を作る際に汚物や廃棄物はいっぱい出るんだ。
だから、下水やごみの処理の仕組みがしっかり出来上がっているんだよ」
流石にポッズに隣接する領地に住んでいたリンは物知りだ。
確かに日本も加工貿易が主産業だった頃は公害が大問題になっていたしね。
「リンは物知りだね。
それでポッズのお店廻りをしたいんだけどどの辺を廻れば良いか判るかな」
俺はポッズの街を早く見て回りたくてうずうずしているようだ。
「主様、先ずは宿を確保しませんか。
荷物を宿に置いてからのんびりとポッズの観光をしましょうよ」
そうだな、先ずは宿か。
俺達の荷物は亜空間倉庫があるから中は空っぽなんだけど普通は荷物を背負ったまま街歩きはしないよね。
「そうだな、先ずは宿か。
どうやって宿を探すかな?」
観光案内所なんてこの世界にはないからね。宿探しも結構面倒くさいんだ。
「なあ、オイゲン、あそこにいる身なりの良い2人組、入領の列で俺達の前にいたぞ。
あいつらに付いてゆけば良い宿にたどり着くんじゃんないか」
サミーに視線の先には確かに身なりの良い2人組がいる。
あの恰好なら程度の良い、安全な宿に泊まるだろう。
そう思って、2人の後を暫くつけてみた。
案の定、家構えが立派な宿屋に入ってゆく。
「オイゲン君、宿の看板に☆が1つ刻印されてるでしょう。
ここは一つ星の宿だね。
平民が泊る宿としては最上級と言っても良い宿だよ」
「へええ、星の数で宿のランクが決まるんだ」
「うん、ひとつ星からよつ星迄のランクがあるんだけど。
ふた星以上は基本貴族が泊る宿だよ」
「ならここにするか」
幸い宿には空き室が有ったので四人部屋を押さえることができた。
部屋に案内されると2ベッドルーム、1リビングの結構立派な部屋だ。
俺はどっちの部屋にしようかな。
悩んでいると3人の様子がおかしい。
なんかけん制し合ってる感じだ.
そんな中、俺が奥の部屋に入ろうとすると銀とサミーが脱兎のごとく奥の部屋に飛び込んでゆく。
なんだ、2人は奥の部屋が良いのか
俺は2人に奥の部屋を譲って手前の部屋にリンと入る。
「やあ、リン、よろしくね」
「ハイ、オイゲン君」
そんな俺達を銀とサミーがドア越しに覗いている。
「なあ、二人に奥の部屋を譲ったんだからここは感謝するところだろう。
なんで悔しそうなんだ」
「ううう、オイゲンの意地悪」
「主様は冷たいです」
まあ、判ってはいたけどね。
でも今晩はリンと同室だよ。
そんなリンが目を少しウルウルしているのが妙に可愛いんだけど。
「さあ、部屋も決まったしポッズを探検しよう」
俺はそう宣言してポッズの街へと繰り出すのだった。
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