第65話 捕獲大作戦
「銀、サミー、リン、これから作戦会議を行うぞ」
「「「はい」」」
「今回のミッションは廃村を警備している5人を制圧して捕虜にすることだ。
それも、秘密裏にだ。
なぜなら、俺達が廃村に入ったら直ぐに帝国の兵士たちが動き出したという事は廃村が常時監視されていると思うべきだからだ」
「あの5人が騒げば直ぐに増援が来るという事でしょうか?」
「そう考えて対策を取るべきではあるな、その方が安全だ」
「でも主様、私達だけで帝国の兵士5人を秘密裏に制圧することは難しいと思いますが?」
「そうだな、普通のやり方では難しいな」
「それでは、主様の魔法で全員を殺しますか?」
銀はさらっと怖いことを言うな、確かに俺なら5人を一瞬で殺すことはできるがな。
「いや、尋問をしたいので生きたまま確保したい。
俺の魔法で制圧すると殺してしまうので尋問が出来なくなる。
できればそれは避けたいんだ」
「生きたまま捕らえるのか。
オイゲン、それは難しいぞ」
「ああサミーの言う通りだ、普通なら難しいだろう。
だから、普通でないやり方で捕まえる。
題して、落とし穴大作戦だ」
俺が作戦名を言うとみな呆れた顔をする。
「なあ、オイゲン、落とし穴って、五人を無力化できるような落とし穴をこれから作るのか?」
「いや、そんな面倒なことはしないぞ。あいつらの足元に亜空間倉庫の入口を出現させるだけだ」
「亜空間倉庫の入口を出現させるのか?」
納得がいって無いようだな。
「ああ、足元に入口を出現させる。
正確には扉が開いた状態の入口を出現させるんだけどな。
そうすると当然入口から落ちてくるんだ。
倉庫の中から見ると天井に入口が現れることになる。
すると......どうなるかは想像がつくだろう」
「ええっと、倉庫の天井って結構高くないか」
「そうだな、まあ鍛えている兵士なら死ぬことは無いが、相当なダメージを受けるだろうな。
床にたたきつけられて動けなくなるはずだから、そこを捕まえるんだ」
「神子...オイゲン君、それなら簡単に捕まえられますね。
夜まで待つ必要も無いのではありませんか?」
「いや、夜まで待つよ。
夜になれば見回り組と仮眠組に分かれるからな。
少人数ずつ確保が可能になる。
それに、夜なら他の見張りの目も薄くなるしな」
「確かに、一度に補導する人数は少ない方が確かですね。
それで、捕まえたらすぐに尋問ですか」
「いや、5人を捕まえたら、夜の間に俺がひとりで先に進む。
ある程度進んだ所で亜空間倉庫に戻ってくる」
5人を排除して終わりというわけじゃ無い。
昼間に見た人数だけで17人はいたんだ。
5人が居なくなったことが露見すれば捜索が行われるはずだ。
気をつけないと、そいつらに補足されるだろう。
「その後で5人を尋問する。
その内容によっては帰還する」
「主様、それは行けるならポッズまで進むという事ですか」
「ああ、折角だからポッズに簡単に行ける様になりたいしな。
それに、尋問で判った事によってはポッズで更に帝国の動きを調べる必要も出てくるかもしれない。
勿論、ポッズに進むことが危険であれば迷わずに帰還するよ」
こうして作戦は決定した。
☆☆☆☆☆
日が落ちて5人は焚き火を囲みながら保存食を食べている。
ここまで、 廃村の5人を見張り続けて行動パターンが見えてきた。
焚火の周りを拠点にして定期的に2名ひと組で見回りをしている。
残りの三人は無駄話をしたり仮眠をしている。
次に見回りの2人が動き出したら作戦を決行することにした。
最初に焚き火の側の3名、次に見回り中の2人を捕獲するつもりだ。
補足の方法だが、俺が兵士たちに近づいて亜空間倉庫の入口を兵士たちの足元に出現させる。
そうすると3人は倉庫の天井から落ちてくるので、俺以外の三人が待ち伏せて落ちてきた兵士たちを補導する。
まあ、簡単な仕事だ。
最初に全員で亜空間倉庫に入って入口が出現する天井の場所を確認する。
「今、俺が立っている真上に入口を出現させる。
リン、俺の足元をマークしてくれ。
最初に3人、次に2人が落ちてくる。
銀、サミー、リンの3人でそいつらを縄で縛って拘束するんだ」
「主様はどうされるのだ」
「俺は、兵士たちの足元に正確に亜空間倉庫の入口を出現させる為に兵士たちの側まで忍び寄る。
この作戦の成否は入口を正確に兵士たちの足元に出現させられるか否かに掛かっているからな」
「主様、それは危険だ」
「判っている、でも必要なことで俺にしかできない事だ。
それに俺は身体強化と感知が使える。
簡単には見つからないし、捕まることもない」
「そうか......そうだな」
銀が納得したので作戦は俺の計画通りに実行することとなった。
そして俺は今、廃村の柵を潜り、兵士たちが集まっている焚火が良く見える場所を探している。
足元に亜空間倉庫の入口を開けるので足元が見える場所がいいよな。
ならば、建物の二階に上れば...見渡しても平屋の建物しかないので却下だ。
ならば、屋根の上に出るしかないな。
幸いなことに痛んだ建物ばかりなので、屋根が抜けている所がほとんどの建物にあり、そこからなら簡単に屋根に上がれそうだ。
俺は、今焚火を囲んでいる3人の背中側の建物に忍び込む。
焚火からは少し離れているが、足元の確認には充分な場所だ。
音をたてないようにドアを開けようとして、壁に破れている場所があることに気づく。
穴の大きさは俺一人が通り抜けるには充分な広さだ。
俺は足音を殺しながら壁の穴に近づくと身体を穴に滑り込ませる。
無事に中に入り上を見れば星空が見える場所が有る。
あそこの屋根が抜けている。
焚火と建物の位置関係からするとあそこから顔を出せば焚火を囲む兵士たちを見ることが出来る。
屋根が抜けている所を横切る梁が見えるのであの梁に上がれば顔を外に出せそうだ。
梁まではどう上がろう?
暫く途方にくれたが気が付いた。
あそこに扉を出せば良いだけだ。
俺は一旦、亜空間倉庫に入ると梁の横をイメージする。
そして亜空間倉庫の扉を開ければ梁は目の前だ。
その梁に乗り外を覗けば、思った通り、焚火の前に座り込む三人の兵士の背中が見える。
龍からもらった感知のスキルを使うと見回り組の二人は焚火が見えない位置にいることが判る。
では3人を招待しよう。
俺は兵士の足元に扉が開いた亜空間倉庫の入口をイメージする。
そのとたん、焚火の前に座り込む3人の兵士の姿が消える。
「ドン、ドン、ドドン」
三人が倉庫の床にたたきつけられる音が聞こえる。
俺は急いで倉庫の入口を消し、見回りの二人の気配を探る。
暫く気配を感じ続けるが急な動きはないようだ。
どうやら音は聞こえなかったらしい。
2人の動向を確認した後、倉庫の扉を目の前に出し中を覗き込むと、すでに兵士の三人は拘束されている。
銀とのアイコンタクトで拘束は無事に完了していると伝わったので俺は扉を消して残り2名に注意を向ける。
焚火に近づいてきているな。
もうすぐ焚火が見える位置まで来るはずだ。
ほら、来た。
驚くか?
特段の反応は無いな。
呑気なもんだ。
「なあ、焚火の側に誰もいないぞ」
「ああ、ションベンにでも行ったんじゃないか」
「ションベンか?
まあ騒ぐ声とかしなかったしな、特段心配する話でもないか」
「そうだよ、あいつらは俺達に見回りを押し付けて楽してるんだ。
気にする義理もないだろう」
「ちがいないな」
少しの疑問をいだかない見回りの2人は焚火の所までもどると座り込む。
こいつらはいいカモだな。
一瞬で2人姿は消える。
「ドン、ドン」
倉庫の床に叩きつけられる音だけを残して。
さてと、俺も入るか。
中では5人とも拘束済みだ。
さるぐつわも噛ましたので声も出せない。
う~、う~と唸るだけだ。
「銀、俺はポッズへの道をある程度進めてから帰ってくる。
その間頼むぞ」
兵士たちに聞こえない声で銀に後を頼むと俺は村の先にある道の曲がり角にでる。
村の中から見えた道の限界だ。
そこで気配のスキルを使うが探知範囲に人の気配はない。
俺は忍び足で月夜の明かりに照らされるだけの暗い夜道をポッズに向けて歩き出す。
そこからは気配のスキルで人がいないことを確認しながら、身体強化を使い馬並みの速度で夜通し道を歩き続け、空が白み始めた所で亜空間倉庫へと戻る。
「主様、ご無事で」
「ああ、誰の気配もなかったから随分と進むことが出来たよ。
流石に疲れた、少し眠る、俺が起きたら捕虜の尋問をするよ。
そう言えば、銀たちは眠れたのか」
「交代で寝ているから心配ない、それよりも主様だ。
相当に疲れた顔をしているぞ。
さっさと休むのじゃ」
「ああ、悪いが眠らせてもらうよ」
俺は倉庫の片隅の区切られた一角に向かう。
仕切りの陰にベッドが置いてある区画だ。
眠くて意識も朦朧な俺は何も考えずに一番手前のベッドに潜り込む。
「むにゅ」
なにか、柔らかい物に触れたが限界なんだ。
俺はそれを掴んだまま意識を手放した。
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