第13話 父さまのためにも帝国と戦う力を手に入れるよ

父さまにリリーを僕の専属メイドにして頂きました。


僕はこの父さまのご厚意に報いなければなりません。

僕に何が出来るのでしょうか?

まずはポーションを作って父さまにお渡しすることで父さまのご厚意に報いようと思います。


でも、それだけで良いのでしょうか?

僕は良く考えないといけません.


なにを考えるかですか?

父さまがポーションを必要とする理由です。


ポーションを必要とする理由。

それは多くのケガ人がでると父さまが考えているからです。

多くのケガ人がでると考えている理由は帝国が再度王国に攻めてくると父さまが考えているからです。


そう、また王国に帝国が攻めてきて、父さまは王様からの要請で領民を引き連れて帝国との戦いに赴く。

父さまは遠くない未来にそんな時が来ると確信しているのでしょう.


その時に向けて僕は何が出来るのでしょうか?

ひとつは僕が強くなる事でしょう。

でも父さまは子供の僕を戦さ場に連れていったりはしないでしょう。


では、父さまや領民が戦さ場で死なないために何か装備を作れないでしょうか?

そう、僕の知識で、良くある転生モノのお話の様に。

う〜ん、それは難しいです。


ネットに繋がる環境でもあれば別ですが、僕は社会人からもドロップした平凡な人間です。

特別な技術も知識も持っていません。

だから、前世知識を使った知識チートは無理なんです。


だとすると、魔法です。

僕が使える魔法にどんな可能性があるかを考えて、父さまの役に立つべきなのです。


そう考えると僕が使ったライトの魔法。

この魔法について良く考察する必要がある事に思いが至りました。

なんと言っても、この魔法はこの世界の魔法とは違うからです。


どこも違わないだろう。同じ光の魔法だろう。

そう思う貴方は思慮が浅いです……失礼な事を言いました。ごめんなさい。


違うところ、それは僕が魔法で光を出していない所です。

僕はプラスとマイナスの電気を作ってそれをぶつけて光を作り出したのです。


つまり、魔力からプラスとマイナスの電気と云う物質を作り出してそれをぶつけたのです。

そう、魔力から物質を作り出せる。

これは凄いことではないでしょうか。


これは試さなければいけません。

僕の魔力でどの程度の量のどんな物質が創り出せるかを。


でも、この実験は少し危険なので部屋で行うのはマズイです。

なので僕は実験のために屋敷の裏に広がる森に入って行きます。


この森はとても大きいのですが、屋敷の近くでは危険な獣も出ないので父さまに僕の遊び場として認められているんです。


整備された山道を歩くと開けた場所にたどり着きます。

今は使われなくなった訓練所の後だそうです。

だからとても広くて僕だけで使うには勿体ない場所なんです。


そんな場所ですから周りを心配せずに実験が出来るんです。

さあ、魔法の時間です。

魔力を物質に変換するんです。


これは思いの外ワクワクしますね。

僕の心が高揚感に包まれます。

さあ、凄いものを創り出してやるぞ。


そう考えていると母さまの言いつけが何故か頭に響きます。


「オイゲンはまだ小さいのだから無理をしてはいけませんよ」


そうですね。僕はまだ8歳です。

無理はいけませんね。

母さますいません。無理はしないことにします。


では無理のない範囲で何を作りましょうか。

僕は考え込みます。


ああ、アレが良いです。

一円玉、1グラムのアルミニュームです。

1グラムは重さの基本ですし、1グラムの程度の物を作るだけなら負担も軽いはずです。

それに一円玉と魔力の相関が解れば物を作る際の魔力量の基準が決まります。


では、早速挑戦です。


お腹に魔力を集めます。

それを指先に集めます.

この感じだとポーションを作る時に集めた魔力と同じくらいの魔力が集まってます。


さあ、念じましょう。

出でよ、一円玉。

ポーション一本分の魔力が消えて安っぽいコインが一枚現れます。

それは僕が念じた通り一円玉でした。


素晴らしい。ちゃんと一円玉が出来ました。

でも、残念なお知らせもあります。


この一円玉を作るのにポーション一本分の魔力を全て使ってしまったのです。

そして何故か分かったのです。

一度に使える魔力の最大量はポーション一本分だと。


つまり、一度の魔法で作れる物質の最大量は1グラムってことですね。

これでは魔法で武器や武具を作るのは到底無理です。

意味があるだけの量の物を作ることは出来ませんね。


僕は達成感と挫折感、その両方を抱えて館に帰ることにします。


そして、その晩、今日は久しぶりに父さまと一緒の夕食です。

ここの所、父さまは忙しく働かれていて、家族と夕食をとることはほとんどなかったのです。


久しぶりに父さまと夕食を一緒できて僕は嬉しいですし、母さまもニコニコ顔です。


そんな家族が揃った夕食ですが父さまは少し難しい顔をして食事をされています。


「貴方、いつもお忙しいのは仕方有りませんが、せっかく家族揃って夕食を取っているのですから、仕事の事は今は忘れて食事を楽しみませんか?」


母さまも父さまの難しげな顔に気づかれていたんですね。


「ああ、すまんな。でもなんで仕事の事を考えていると判ったんだ」


「まあ、貴方、苦虫を噛み潰したような顔であれこれと独り言を言っているんですから、誰でも分かりますわ。

オイゲンだって、気付いて貴方を心配そうに見てましたよ」


「そうか、オイゲンすまんな。オイゲンにまで心配させるなんて、父さまは親として失格だな」


「いいえ、父さまは領主です。そして常に領民と共にある父さまはオイゲンの憧れです。

今も領民の事を考えていらっしゃたんでしょう。

父さまは、とてもご立派だと思います」


「まあ、貴方はオイゲンの憧れなのね。羨ましいわね。

それで、一体何に悩まれているのかしら?

差し支えがないならここで話して見ませんか?

ひとりで抱え込むより良い結果になるかもしれませんよ」


「そうか、それでは聴いてくれるか。

悩んでいるのは戦力の事だ。

いづれ来る帝国との戦さに備えるためには戦力の強化は必須なのだ。


だが、戦士たる領民は一朝一夕で増えるようなものではない。

そして次に我が王国と帝国が戦う時は両国の雌雄を決する大きな戦いとなるだろう。


だから、出来る限りの戦力を持って私も戦いに赴くつもりだ。

だがな。そうすると、この領地に敵が攻めてきた時に守る力が残せなくなる。

かと言って、出し惜しみはできんのだ。

帝国に負ければ全てが失われるだろうからな」


これは難問ですね。

何か前の世界の知識は使えないでしょうか。

そうだ!


「父さま、歳をとり兵士を引退された方は何をされているのですか」


「何を、何をか?

そうだな大抵は隠居暮らしで、仕事と言えば細々と作物を作るぐらいではないのかな」


「その様な元兵士の方に父さまたちがいない時は剣を持ち領地を守ってもらう訳にはいかないのでしょうか?」


「年寄りに戦えと、オイゲンは過激だな」


「父さま、年寄りだけではないですよ。

兵役に就くには早い若者も見習い兵とするのです」


父さまは僕の意見に驚かれたようです。


「お前は、隠居様や年端もいかない若者に戦えと言う気なのか」


「ハイ、父さまが心配される様にこの領地に帝国兵が襲ってくれば、どのみち殺されます。

であれば、戦わずして殺されるより、戦って戦士としても誇りと共に死ぬ方が幸せです」


「そうか、確かにただ殺されるのは悔しいな」


「父さま。であれば、年寄りや若者も組織してその力に応じた訓練を施すのが良いのではないでしょうか。

装備や訓練時の手当など、お金がかかる話ですが、僕が作ったポーションを売ればお金は何とかなるのではないでしょうか」


「そうか、そうだな。年寄りと若者か、いざという時の為に戦える力を与えるのは悪くない考えだな」


そう話す父さまのお顔は晴れやかで、その為かその夜の母さまの嬌声はひときわ激しいものでした。

翌朝の父さまと母さまの晴れやかで仲睦まじい雰囲気を見て、それだけでも夕食の時に意見を言った甲斐があったのだと思いました。


そうですね、知識チートは無理でも、僕の知識が多少は役に経つんです。

これは嬉しい誤算でした。


そうして、父さまは予備役制度と見習い兵制度の構築に取り掛かられたのでした。

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