妹とイチャイチャしてる現場を後輩(カノジョ)に見られたから逃げた

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

なんで逃げるんスか~あ?

 今日は妹の誕生日だ。

 遠くの百貨店に来ている。

「チヒロ、今日は好きなの、買ってあげるからなー」


「わーい。お兄ちゃん大好きー」


 もう中一というのに、妹はまだ兄離れができていない。


 オレには交際相手がいるので、いい加減オトコでも作っておとなしくして欲しいのだが。


「あっれー、先輩じゃないっスか~」


「げっ! クルミ!」


 よりによって、一番会いたくない相手に出会ってしまった。


 斉藤クルミ。オレの交際相手だ。


 こいつにだけは、妹とイチャイチャしている姿は見せたくなかった。

 ウザ絡みしてくるから!

 

「ゲッてなんスか~? かわいいカノジョに向かって~」

 

 妹と同じ13歳だが、違う学校に通っている。


「今日は違う女とデートッスか~?」


「違う違う誤解だ。コイツは妹だ」


「マジッスか~? 腕まで組んじゃって~。とてもご兄妹には見えませんなぁ~」


「今日は特別なんだよ。急ぐから行くぞ」


 オレは妹の手を強引に引いて、立ち去った。

 

「逃げることないじゃないですか~。本当は誰なんです?」


「だから妹なんだって!」

 

「だったら、普通に紹介できるじゃないっすか~」


 逃げるオレたちを、クルミはスタスタと早歩きで追いかけてくる。

 

「ねえねえ先輩、なんで逃げるんスか~?」


 ニヤニヤしながら、早足で付いてくる後輩。

 

 

「だれよ、あの女ー」

 ブレーキをかけ、妹までオレに食ってかかってきた。

「いやいや違うんだってばー」

 

 落ち着いたところで話したいのだが、おいかけっこの状態になっているので話ができない。


「待って下さいよ~。先輩をイジルのあたしの趣味なんスから~」


 いい趣味してんな、お前!



 先回りされてはUターン。先回りされてはUターンを繰り返し、とうとうオレは捕まってしまった。


「どうして、オレの行動パターンが読めるんだ!?」


「思考が単純なんスよ~」


 とうとう、デパート屋上の公園に追い詰められる。

 

「はあはあ、しつこいぞ」


「とうとう捕まえましたよ~。さあさあ、白状して下さいよ先輩っ」


 ウザさがさらに加速し、チヒロのいない方の腕にしがみつく。

 

「だから、本当に妹なんだ。名前はチヒロっていう。ご挨拶しろ」


「ええっと、彼女さんはじめまして。チヒロです。お兄ちゃんがお世話になってます」


 行儀良く、チヒロは自己紹介をする。


「ど、どうも」


 顔のニヤツキを引きつらせて、なんとかクルミは挨拶を返そうとしているようだった。

 

「マジ妹さんなら、普通に紹介してくれてもよかったじゃないですか~」



 

「お前が嫉妬しちゃうだろ!」



 

「え……」


 ボッと、クルミは分かりやすく赤面した。


 

「妹は、まだオレ頼り切りなんだ。中学を別々にしたのも、オレとの時間を短くして、少しでも独り立ちできるようにって親の判断だった。けれど、反動で妹はオレにベッタリするようになってさ」


「じゃあ、カノジョを作ったのって、妹さんから自分を引き剥がすためってだけだってことッスか?」


 クルミが、悲しい顔を見せる。


「そういう考えをさせたくなかったから、説明は日を改めたかったんだよ」



 ちゃんと説明しないと、分かってくれないと思ったから。



「オレが告白したのはお前が好きだからだよ!」


「はい。ありがとうございます……」

 


「この言葉だって、妹に聞かせたくなかったんだ。自分が捨てられたって思っちゃうから」



「すいません。あたし、自分のことしか考えてなかったッスね」



 クルミはUターンしてスタスタとデパートに入っていく。


「妹さん、お邪魔しました。デート楽しんでくださいね!」


「おう、分かってくれたか!」


 クルミが消えた直後、スマホにメールが入る。

 

 

『まあ、このお礼は後日、たっぷりしっぽり楽しませていただきますが!』

 


 舌なめずりをしているクルミの自撮り顔は、無邪気な邪悪に満ちあふれていた。


 やっぱわかってねえわ、コイツゥ!

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