34 クズヒモ彼氏を可愛がるダメ女
朝、教室に入ると。
「お、大明神が来た!」
いきなり、クラスの男子が訳の分からないことを言いやがる。
「は?」
「よっ、春日大明神!」
「大明神!」
「エロ大明神!」
何でやねん。
「春日く~ん!」
すると、クラスの女子までもニヤニヤしながら俺の方に声を掛けて来る。
「体育祭のアレ、すごく良かったよ~」
「若いって良いわね~」
「あんたも若いでしょうが」
「そうでした」
「「「キャハハハハ!」」」
う、うぜえ。
何だクラスの連中のこのノリは……
「あ、あの、春日くん」
弱弱しい声に振り向くと、新聞部の麦畑がおずおずしていた。
「おい、お前らの記事のせいでエラいことになっているんだが」
「わ、わたし達のせいじゃないよ~。春日くんがあんな大胆な行動をするからいけないんです。そりゃ、わたし達もネタにしますよ~!」
「それは百歩譲って仕方ないとして、クズヒモ野郎って……クズは認めるが」
「認めちゃうんですか。だって、春日くんは東条さんのヒモだって言う声も多数上がっているんですよ」
「マジか……ちゃんと、デートの時は俺の方が多めに出しているのに」
俺は少しションボリした。
「――騒がしいわね」
その声にみんなの視線が引き寄せられる。
「あ、桜子ちゃん!」
女子達が群がる。
「ねえねえ、桜子ちゃんはどう思ったの?」
「春日くんの熱い叫びを聞いて」
「あたし達はキュンキュンが止まらないよ~!」
まずい。
こんな風に迫られたら、あいつが軽くキレてしまうかもしれない。
「うふふ、バカな彼氏を持つと苦労するわ」
意外と桜子は冷静だった。
それから、スタスタと俺の下に歩み寄って来る。
「おはよう、光一」
「お、おう」
「体育祭の疲れは残っていない?」
「あ、ああ」
「そう、良かった」
桜子は笑顔のまま席に座った。
俺も席に座る。
周りの奴らはとなり同士の俺たちに対し、終始ニヤけた視線を俺達に送っていた。
◇
そして、昼休み。
いつも通り、桜子と二人で弁当を食べていた。
時折、通り過ぎる奴らがニヤケながらこちらを見たり、しばらく観察したりして鬱陶しいけど、仕方ない。
「そういえば、要石さんはちょっかいを出して来てない?」
「ああ、一応な。けど、あいつの性格からしてまた変なちょっかいを出して来そうだ」
「ふふふ、その時は私も対処するから、遠慮なく相談してね」
何か怖いなぁ。
ていうか、朝からずっと笑顔で怖いんだけど。
これ、もしかして激おこなパターンじゃないよね?
だって、その時にもうコッテリと絞られたし。
「ところで、光一。ちょっとお願いがあるんだけど」
「え、何?」
俺は軽くドキリとする。
「その、言って欲しいセリフがあるの」
「え? 何だよ、演劇ごっこでもするつもりか?」
「つべこべ言わないで」
「はいはい。で、何て言えば良いんだ」
俺が聞き返すと、桜子は少しだけ間を置く。
「おい、桜子。お前、そのエロい体でちょっと金を稼いで来い……はい、どうぞ」
俺はポカンとする。
「ちょ、ちょっと。早く言いなさいよ」
「いや、何で?」
「だ、だって、あなたはヒモクズ野郎って言われているんでしょ?」
「そうだけど……クズはそうかもしれないけど、ヒモではないだろ」
「それは分かっているけど……お願い、そんなあなたを妄想して楽しんでみたいの」
「えぇ~……」
俺は心底嫌な気持ちだが、桜子は潤んだ瞳で見つめて来る。
ちっ、可愛いなこいつ。
「はいはい、分かったよ」
「本当に?」
桜子の顔がぱぁっと晴れ上がる。
「……おい、桜子。お前、そのエロい体で金を稼いで来い」
「ズキュゥン!」
桜子は心臓を押さえて悶える。
「ハァ、ハァ……よ、予想以上の破壊力だわ。元から、クズの素質があるというかクズそのものみたいな男だから、余計にマッチして興奮するわ」
「お前はドMだもんな」
「う、うるさいわね。じゃあ、次行くわよ」
「えっ、まだ言わせるつもりか?」
「桜子、お願い。親が交通事故に遭っちゃって。20万円貸してくれ……はい」
「おい」
「早く言って」
「ちっ……桜子、お願いだ。親が交通事故に遭って困っていて……20万円を貸してくれよ」
「ズキュキュ~ン!」
桜子はまた身悶えする。
「ハァ、ハァ……こんなクズ男に人生をメチャクチャにされるのもアリね……」
「おい、さっきから何を言っているんだ?」
「じゃあ、次はちょっと長めの小芝居をしましょう」
「ダルいな」
「良いから、付き合って」
「はいはい」
「台本はこんな感じよ……
『ねえ、そろそろ借りたお金を返しなさいよ』
『いや~、ちょっと親の入院が長引いて……すまん』
『何よ、あなた返すつもりないでしょ? もう良いわ、別れましょう』
『は? 何でだよ? ていうか、お前はそれで良いのか?』
『もちろん、清々するするわよ』『一人じゃ何もできねーくせに。家事だって、俺がやってたんだぞ?』
『家事って、軽く床をクイックルするだけでじゃない。このクズ男』
『そんなクズに惚れているバカはどこのどいつだ?』
『べ、別にあなたになんて惚れてないから』
『本当か?』
『ちょ、ちょっと、アゴクイってしないで……んっ……』
『俺と別れたら、もうこんなキスも出来ないんだぞ?』
『そ、それは……ちょっと嫌かも』
『いい加減に自覚しろよ』
『な、何を?』
『お前は、俺がいないとダメなんだよ、桜子ちゃん』
『ドズキュウウウウウウウウウウゥン!』
……以上よ」
俺は開いた口が塞がらない。
「お前、自分で説明している段階で興奮しまくっているじゃねえか。本当にやり取りしたら鼻血を出して死ぬかもよ」
「は、鼻血なんて出さないもん。良いから、早くやりなさいよ!」
「わ、分かったよ」
「じゃあ、行くわよ?……ねえ、そろそろ借りたお金を返しなさいよ」
「はぁ……いや、ちょっと親の入院が長引いて」
「何よ、あなた返すつもり無いでしょう? もう良いわ、別れましょう」
「何でだよ。お前はそれで良いのか?」
「……良くないです」
「おい、自分から台本を崩してんじゃねえよ」
「だ、だって……光一と別れたら、私はきっと死んじゃうもん」
「もんって……子供みたいな奴だな」
「う、うるさい! あなたのせいなんだからね!」
「はいはい、分かったよ。どうすれば機嫌が直る?」
「キスして」
「はいはい」
ちゅっ。
「これで良いか?」
「何かおざなりね。ぶっ殺すわよ?」
「良いのか? 本当に俺を殺して?」
「うっ……ズ、ズルイわよ~」
「これは良いや。今度からお前にヤンデレっぽく迫られたら、こうやって返そう」
「む~~~~~~! 光一のバカアアアアアアァ!」
何だか体育祭の疲れが取れました。
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