2.すべて

『今日から、このノートにこれから起きていくことすべてをできる限りまとめていこうと思う。』


 8月1日。

 あれは授業中のことだった。いきなり爆音が響き、何が起きたかと思うと外には見たこともないでけぇやつがいた。何が起きたのかサッパリわからなかった。オレは無我夢中で必死に逃げた。外にいたパトカー、ヘリコプターは応援にきたほとんどがそのデカブツによって叩きのめされていた。オレがぼーっと突っ立っていると、応援にきた自衛隊の隊員に声をかけられ、保護されることとなった。あまりよく覚えていないが、かなりごつい車に乗せられたのは覚えている。移動中も外から聞こえる音は爆音だった。

 クラスのみんなは無事だったろうか。オレはみんなを見捨てて一人逃げてきた。いや、そうするしか考えがなかった。

 あの日、オレ達のすべては奪われた。あいつらを放っておくわけにはいかない。


 8月2日。

 関東圏は「立入禁忌きんき特別警戒区域」に指定された。残念ながら東京都に住む半数以上の人間がこの世からいなくなった。死んだ。

 オレを含む生存が確認された者は当面の間は東北圏、関西圏の二手に分かれてで暮らすことになるという。


 8月5日。

 日本政府が半壊滅状態にあるため、県庁所在地が北海道の札幌というところに仮設定された。札幌もかなり対応に追われているみたいだ。

 あと、自衛隊も次の戦闘に備えられるほどの人員が足りていないらしく、全国に支援を要請しているみたいだ。


 8月29日。

 先日の巨大生物奇襲について、動きがあった。被害にった現場の辺りから大量の「未確認生物の血液」が採取された。おそらくあのデカブツのものだと思われる。研究班を設置してこれからあの生物について研究を進めていくみたいだ。しかし、血液以外に何か情報はあるのだろうか?


 9月10日。

 進展があった。国内では北海道、沖縄、海外でも巨大生物による奇襲被害が確認された。推定死者は今日だけで100万人をゆうに超えるだろうとの見解もある。いよいよクソみてぇな状況になりつつある。いてもたってもいられない。こうしてオレがペンを走らせている間にも死人が出ているだろう。


 9月20日。

 研究班に動きがあった。先日採取されたあのデカブツの血液からこれまでに検出されたことがなかった因子を検出したとのこと。さらにその因子の取り出しに成功したみたいだ。化学はよくわからないけど、すごいな。まだ日が浅いのにここまで進歩している。

 追記。研究班には海外からのエリートも集っているとのこと。日本の「アシハラプロジェクト」という国内最先端化学を研究しているメンバーがグループを立ち上げたそうだ。すごい。


 9月27日。

 政府の崩壊が原因で、インフラもまともに機能しなくなってきている。これからどうなってしまうのか。とにかくこの状況をみすみす眺めているわけにはいかない。早いとこ行動に出たいが、一体どうすればいい。

 そういえば研究班が人体実験に成功したとかいう記事を見つけたけど、大丈夫なのか?進展はすごいけど、かなり危険なことをしていることに変わりない。変な方向に進んで無駄な犠牲を増やすことがなければいいけど。


  *


「明日から10月か……もう二か月経つんだな」


 オレは8月からのノートを見返し、ため息をつく。

 たしかに人類は大きな損失を受けた。でも、なにかすべはあるはずだ。まだあのデカブツについても全く情報がわかっていないが、おそらくこれから公開されていくことだろう。

 オレはふと時計を見やる。時計の針は22時を指していた。


「そろそろ寝るか」


 なんだか重い体を動かし、宿舎のベッドに身を預けた。


 翌日――。

 朝、目を覚ましトイレに向かった時、ポストになにか投函されているのを発見して手に取った。

 差出人は——「アシハラプロジェクト巨大生物研究班」。


「……なぜ」


 なぜあの研究班がオレのような一般人宛てに封筒を?

 恐る恐るオレは封筒の中身を取り出す。


迅 帯人じんたいと 様。突然このようなものを送ってしまい、申し訳ありません。現在、公にはなっておりませんが機械獣きかいじゅうの因子投与の人体実験を行っております。……』


 そんな一文から始まった手紙の内容は驚愕のものだった。

 まず、あの巨大生物は自ら進化を遂げて体内に精密機械を取り込んだ機械獣だということ。

 その機械獣の因子は我々人間にも通ずるものがあり、既にサルを使った因子投与実験では、サルの視力、筋力などの身体能力が急激に上昇したとの成功例もあるということ。

 そしてその投与実験は人体でも同様の成功例が確認されており、70パーセントの確率で成功するというデータもあるという。

 本題はここからだ。

 その人体実験に、オレを使いたいということだ。正確には、因子投与を行い、成功した後に次の奇襲に備えるために、研究班と海外のチームで立ち上げたフィールド戦士メンバーとして迎え入れたい、というわけだそうだ。

 文の最後には、日時、研究所までの送迎バスの案内が載せられていた。


「……フィールド戦士メンバー、か」


 命の危険を伴うことは言うまでもない。まず、因子投与実験の時点で体がむしばまれて死んでしまう可能性だってある。普通ならこんなことは参加したくない。関わりたくない。

 しかし、オレは不思議とその恐怖に打ち勝てる気がした。

 あいつらに奪われたすべてを取り戻したい。

 そんなメンバーの一員になれるのなら。


『お前は……生きろよッ!!』


 脳内にの声が聞こえた。


「……ふぅ」


 オレは深呼吸をして、その手紙を受け取った者しかアクセスできない研究所のホームページにアクセスした。


「やるしかない、そうだよな」


 ここから、オレの怒涛どとうの日々は始まるのであった――。

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TRIGGER FALL -硝煙の戦士- 深夜 うみ @s_xxaoi2

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