1.絶望

 2019年8月1日――。

 オレ――迅 帯人じんたいとは大きなあくびをしながら現代国語の授業を受けていた。

 シャーペンを手で回しながら、ふと窓の外を見やる。

 今日はやけに天気が悪い。

 帰りに雨が降ると制服が濡れて面倒くさい――そんなことをつらつらと考えていると、「ではこの問題を……」と生徒の顔をうかがう教師と目があってしまった。


「じゃあ、帯人」


 だろうな。

 小さくため息をつき、立ち上がったその瞬間――。


 バリバリ、と何かが裂き割れるような轟音ごうおんが教室中に響いた。続けて窓ガラスが勢いよく割れ、そこから突風のような強い風が一気に教室内に吹き込んでくる。カーテンはバサバサと音を立てて激しく揺れる。割れたガラスの破片で窓側の席にいたオレは頬に傷を負った。ピリッと痛む。

 悲鳴、悲鳴、悲鳴。

 パニックの教室をなだめようと教師が必死に声を上げるも、吹き込む風の音と外のバリバリという謎の轟音のせいですべて掻き消されている。


「クソッ……なんなんだ一体!?」


 オレは風に飛ばされそうになりながらも必死に窓のふちを掴んで立ち上がり、外の様子を見ようと試みる。

 なんとか立てる、という状態で見えた外の状況は想像を遥かに超えるものだった。


「オイ……嘘だろ」


 3階から見えるグラウンドを囲う木々たちは風によるものかぎ倒され、その先には既に崩壊した住宅が何戸もあった。

 そして、この状況を作り出した元凶であろう巨大生物が二体ほど暴れまわっていた。


「10メートル……いや15メートルはあるか?」


 ありえない。この世にこんな生物がいるとは聞いたことがない。

 オレは夢でも見ているのか?

 開いた口がふさがらないまま外の状況に釘付けになっていると、遠くにいるその巨大生物がこちらめがけて走ってくるのが見えた。まずい。


「お前ら!!一階に降りるぞッ!!」


 オレの呼びかけが聞こえていないのか、クラスの人間は誰一人として動こうとしない。

 オレは舌打ちをして単独行動に移った。危険だとはわかっていてももう仕方がない。あそこにいればいずれ建物が崩れてお終いだ。とにかく今はなるべく人が密集しないように散開すること――。


 階段を駆け下りて一階まで来たときだった。凄まじい音と衝撃が体を止めた。目の前にヘリらしき機体が突然墜落してきたのだ。本体はもうガラクタ同様鉄の塊と化しており、コックピットには人間はいなかった。

 オレは悟った。あいつらはもうすぐそこまで来ている、と。

 廊下はもうダメだ。一か八か窓から逃げるか?


「……ッ」


 考えている暇などなかった。オレはすぐさま窓から校舎の外に出ると状況がいよいよ明らかになってきた。

 事が起きてからまだ十分ほどしか経っていないはずだが、外にはすでに何十台ものパトカーや特殊部隊の護送車、上空にはヘリが見えるだけでも十機飛び回っていた。先ほど墜落してきたヘリもこの部隊の仲間だったのだろう。

 銃声に続く銃声。ハンドガン、マシンガン、機関銃。聞き分けができるほどではないが、いくつかの銃声が入り混じって聞こえてくる。


 終わった。オレはそう思った。

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