TRIGGER FALL -硝煙の戦士-

深夜 うみ

0.硝煙

 2020年2月2日――。


 荒廃した都会、東京。跡形も無く消え去った建物たち。

 普段なら行きかう人々で賑わう場所も、今は倒壊した建物の残骸やゴミが散らばっている。

 辺りを見渡せばどこもかしこも煙が上がっている。こんな状況でも道端で座り込む老人がいた。老人は指を噛んで何やらぶつぶつと言葉を発している。またある者は精神が錯乱しているのか何かわめき散らしながら歩いている。その他にも、壁を蹴ったり、もう動かないはずの車に乗り込み文句を吐き散らしたり。

 そんな腐った都会の状況にも見慣れた男が、ある一人の青年に声をかけた。


「おい、そっちは立ち入り禁止区域だぞ」


 しかし青年は聞く耳を持たずそのまま進んでいく。

 男は舌打ちすると、青年の肩をつかみ【KEEP OUT】のテープの外に強制的に連れ戻した。


「いいか、死にたくなければ俺の言うことを聞け。もう一度言う、ここは——」

「オレは【第一世代機動隊】のタイトだ。何か用か?」

「なっ……」


 証明書を見せつけぶっきらぼうに青年が言うと、男はまたばつが悪そうに舌打ちをした。


「ったく、今は高校生ガキでも【機動隊】になれんのか」

「ガキで悪かったな。状況が状況なんだから仕方ねぇだろ、中学生でも【機動隊】やってるぞ」

「そうかい、ひでーな」

「まったくだ」


 男は、青年――タイトが【機動隊】の一員だと知ると安堵したのかその場で煙草たばこを吸い始めた。


「おいおい、まだけむたくするつもりか」


 タイトは毛嫌うように男から吹かれた煙を手で払う。


「今更だろ。そういや名前言ってなかったな、俺はアズマ。お前とはみてーだな」

「同期?」

「お前の証明書プレート、入隊年が俺と同じだったぜ」

「あの一瞬でよく見たな」


 そう言ってタイトは証明書をもう一度見る。

 入隊日――2019年10月2日。


「もう半年経つんだな」


 タイトは濁った空を見上げて言った。アズマはそんなタイトを横目で見ると、煙草を吹かして不敵な笑みを浮かべた。


「そうだな。半年でこんだけ荒らしちまうんだ、とんでもねぇ奴らだよ」

「ああ。【機械獣アイツら】さえいなけりゃ、罪のない人間がハエみたいに叩き殺されたり、名もなき学生が戦う必要もなかったんだ」

「とんでもねぇ時代に生まれちまったもんだな」


 タイトは静かに目を閉じて、半年前のことを思い出した。

 すべてが始まった8月1日のことを――。

 

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