第5話 宇宙ステーションへの潜入
地下道を通り橋の下に抜け出た俺とラオンは、目立たないように川沿いを辿った。ここを真っ直ぐに行けば、宇宙ステーションの裏門に着く。
たった今発射したばかりの貨物シャトルが、轟音を響かせ俺たちの頭上彼方に飛び立っていくのが見えた。朝の宇宙ステーションは人の行き交いが激しい。
裏門からこっそり構内に忍び込んだ俺とラオンは、太い柱の陰から辺りの様子を窺う。
発射台にセットされた貨物宇宙船が何台も並ぶ中、運び屋のおっさんたちが慌ただしくせかせかと荷物を積んだり降ろしたりしてる。その運び屋のおっさんたちに混じって、制服姿の惑星警備隊もうろうろしていた。
やっぱり、ここは一段と警戒が厳しい。なんとなく予想はしてたけど、これを突破していくのは中々に難しい。
「どうする、ラオン」
俺は、内心参ったなぁと舌を巻き気味に尋ねる。
「貨物船に乗り込むんだ」
この状況を目の前に、ラオンはあっさりと答えた。
「どうやって」
どう見ても、完全にお手上げだろ。
きっとラオンと俺の似顔絵は、もうこの街どころかマーズ中に知れ渡ってる筈だ。ましてや警備隊が、俺たちの顔を見逃すわけがない。
「何とかなるよ」
そう云うとラオンは、身を低くして進み出す。
「おいっ」
本気かよ。無謀ってか、思い切り良過ぎだろっ!
ラオンの行動力の高さに、俺は引け目を取らないように仕方なく後を続く。
もう、どうとでもなれ。
心の内で呟きながら。
地べたすれすれに屈み込み、荷物の陰から陰、まるで綱渡りみたいに慎重に一番近い貨物船に近づいていく。僅かな距離なのに、背中や
ネズミになった気分だった。
近づいた人影に、俺たちはびくりと動きを止める。
どうやら運び屋のおっさんが二人、タバコ吹かして仕事の愚痴をこぼしながらやってる。
愚痴るなら、どっか他でやってくれ。
俺たちは小さくなったまま、おっさんたちが去るまでの間息を潜めていた。デカイ図体を荷物に寄りかけてるらしく、おっさんたちの動きに合わせて木箱がギチギチ音を立てる。
その度に、心臓がびくんと跳ね上がった。
おっさんたちの笑い声が遠ざかり、完全に気配が消えたのを確かめると、俺とラオンは再び動き出した。
もう少し。もう少しで、一番近い貨物船に辿り着ける。という矢先に、もう俺たち二人が隠れられるような荷物がない事に気づいた。
距離にして、多分3メートル程。
駆け抜けようにも、その様子は丸見えだ。しかも作業する貨物乗員に混じって、警備隊が二人程見張ってるし。
まさに断崖絶壁状態だった。
……なんとかしなきゃ。俺の気持ちが焦り出す。
「おいおい、こりゃまたなんの騒ぎだ」
どっかのおっさんが、誰かに尋ねてる声が聞こえた。
「何でもジュピターの姫さんが、拐われてこの星に居るらしいぜ」
「へえ~、そりゃあそりゃあ」
関心する素振りをしがらも、尋ねたおっさんは完全に他人事だ。
「けど案外さあ、あの箱の陰とかに居たりしてなあ」
おっさんが適当に放った言葉に、俺の背中から冷や汗がぶわっと吹き出す。
頼むからおっさん、余計な詮索はするな!
「ははは、まさか」
まさかじゃねえ、ズバリ当たってんだよっ! ずいぶん質悪りぃ。
……どうすんだ。このままじゃ……。
いつまでもこうしていられるわけもない。最悪貨物船に忍び込む事すらできず、そのうち見つかっちまうのが関の山。
チクショウ……、ここまで来て。
俺は悔しさに奥歯を噛み締めた。
ラオンの息づかいと体温をすぐ傍に感じながら、どうにもできない自分に歯痒さと苛立ちを覚えた。
その時だった。
「おーい、警備さーん!」
ステーションの大きな門の向こうから、聞き慣れた声が響いた。
to be continue
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