第41話
ゲームに見る主人公の哲学 41
「何があったの」
という質問には何も答えられなかった。
その女性は先生ではなかった。
司書という特殊な役回りらしい。
普段は図書館に勤務しているが、週に1度。近隣の学校生徒へ優良図書の紹介に来るそうだ。
その情報はぼくが答えないかわりに彼女が教えてくれた。
少しでも会話の糸口にしたかったのかもしれない。
結局何も答えず、そのまま帰宅。
母とはずっと会話をしていない。
食事を作業のようにとり。話しかけられても生返事。
母が自分の扱いに戸惑っているのが分かる。
ただ、自分の事で精一杯だった。
友達作りからいじめの対象。
ボクシングという新しい武器は、すぐには自分を守ってくれない。
成長するしかない。
その想いは一層強くなり、
練習を積み重ねながら、ぼくは次の日曜日を迎える。
「おはよう」
待ち合わせをしているわけでもないのに、いつもの時間帯。翔子は図書館のそこにいる。
「今週はどうだった? 変なことされなかった?」
母親が子供にたずねるような聞き方だった。一週間のありのままを伝える。
ボクシングを独学で勉強したこと。公園でなわとびをしたこと。そして、この間の。
「やっぱり。動いてきたか」
その発言に少し笑ってしまった。「なによ」彼女は怒ったが、
「どこの指揮官かなと思って」
ゲームでもよくあるシーン。能力の高い軍師が状況を分析したうえで分かったような発言。いつも思う。思い通りなら最初からそうすればいいのに。
「想定内だけどペースが早いなって思ったの。早めに仕上げないとね」
彼女と一緒に図書館を出る。向かうのはこの間の公園。
仕上げる。
顔には出さないが、その言葉に心躍る自分がいたのだった。
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