第36話

翌日の早朝。


橘はじめは公園にいた。


手に握られているのはプラスチックの握りにひもがついている道具。


そう、なわとびだ。


これを手にするのは初めてではない。




小学校の時、


「なわとびチャレンジ」


と書いてある紙が先生から配られた。


紙に「10・20・30・50・100」と数字が割り振られ、


左端から順番になわとびの技の名前が書いてあった。


「これができたら色鉛筆で色を塗っていくからね」


指定された技と回数をクリアできたら色を塗っていく。


ビンゴゲームの運動版。そういったイメージ。


当時は色を塗るのに夢中になった。


「なわとびなんかやってないで勉強しなさい!」


母の怒りに触れるまでは。




あれ以来、ずっと押し入れのダンボールに封印されていた。


翔子に言われて図書室で本を借りに行った。


「ジャブ・ストレート」という言葉では検索はヒットしなかった。


「ボクシングではいかがですか?」


図書室のお姉さんから指導を受け、ようやく手に入れた本。


家に帰り、夢中になってページをめくった。


その結果が早朝のなわとびである。


セットポジション。「ふー」一息入れて、握りの感触を確かめる。


大きく前に振りかぶる。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


空を切る音とともに、本で書いてあったステップを駆使する。


「右2回、左2回」


片足を2回ずつ大地にあてる。左右交互にだ。


これによって下半身の強化と、リズム感。


が鍛えられるらしい。


下半身の強化はジャブとストレートによって生じるブレを防ぎ、


リズム感はテンポ良く攻撃を繰り出す際に必要らしい。


好きなゲームの世界に置き換えてみる。


それらにあたるステータスは、


「はやさ」


のみ。リズム感という言葉に関しては見たことがない。


「っ!」


なわが右足にひっかかる。


空を飛んでいるところを何者かに撃墜された気分。


「こんなことで強くなれるのか」


そんな疑問を抱きながら、なわを跳び続けた。


逆襲のために。


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