第35話

大砲を見せられてから再び図書館の休憩室。


ここを運動の休憩にあてているのは僕らだけじゃないか。


途中の図書室にいる文系の人たちを見てそんなことを思った。


席に座ると彼女は鞄からノートを取り出し、ビリっと1枚破った。


なんのためらいも感じられない。彼女は破れた1枚に何かを書き始める。


「これ」


彼女の頭が起き上がり、ペンを握っていた手には破れた紙が握られている。僕の前に当たり前のように差し出した。


「なにこれ」

「トレーニングメニュー」


書かれている内容は、


「ジャブ、ストレートのフォーム確認」


それだけだ。


「これだけ?」

「そう。これだけ」


彼女は落ち着いて言い放つ。


「逆襲」


という言葉に期待をし過ぎていたのかもしれない。


彼女の大砲を見て強くなれる。


そんな淡い期待を覚えていた。


一条どころか3人相手にしても勝てる。


そんなヘラキレスみたいな存在になれる。


そう思っていた。


「これだけで大丈夫なんだね」


自分の中のガッカリが言葉になって出てしまった。


「できそう?」

「ジャブとストレートのやり方が分かれば」

「なら調べて」

「え?」

「ここは図書館」


彼女は両手を広げて図書室の方向を見る。


「教えてくれるんじゃないの?」


彼女は小さくため息をつくと、こちらに向き直る。


「物事の本質を理解するには、自分が主役になること。言われたことをやるだけなら成長はない」


たんたんと話す彼女の言葉には自信が感じられる。自分もその言葉を胸にやってきたのだろう。


「誰の言葉か知ってる?」

「誰?」

「私の言葉」


聞かなければ良かった。


「さぁ、本を借りてこよう」


彼女の言葉に促されるように僕は図書室へ向かった。


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