第34話
「やってみて」
彼女はそう言った。
自分に。
橘はじめに言われている言葉だと理解するのに少々時間がかかった。
自分を取り戻し彼女に視線を戻す。
「やってみて」
2度目の言葉。
何の感情もない機械的な言葉。
それは自分に対する最後通告のように感じられた。
それぐらい彼女には迫力があった。
構える。
左手を前方、右手を手前。同様に足を広げ、
右の腕を一気に振り抜く。
彼女の目の前に僕の拳が到達する。彼女は一切まばたきをしなかった。
「よし」
彼女は笑顔になる。先ほどの戦士のような顔ではなく、いつもの翔子の笑顔だ。
僕も安心して持ち上げ続けていた腕を下ろす。
「これからは私が君を強くするから」
不思議だった。
女の子に「強くしてもらう」宣言をされた。
そんな経験は13年間の人生の中で初めてだった。
橘はじめは男である。
強いものに憧れたこともあったし、
それを見事に体現したゲーム中の『ヘラキレス』という存在は彼の中で大きなウエイトを占める。
が、どこか縁遠いものに感じていた。
それが現実になっている。
自分はヘラキレスのように立ち回れるのか。
イメージは全く浮かばない。
それでも不思議と不安は感じなかった。
『僕の師匠は右手に大砲を持っている』
その事実はどんな敵をも粉砕する。
そんなキラーワードだった。
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