第31話

日曜日。


僕はいつもの図書館に来ていた。


翔子に会いに。ではなく、1人になりたかった。


自分のせいでもない。


僕が原因で起こった騒動に、必死で頭を下げた母。


あの人と一緒に家にいたくなかった。


「よう! 少年!」


いつもの声が聞こえてくる。


「図書室にいないから探しちゃったよ。最初から休憩室にいたんだね」


いつものノリで話す彼女についていけない。


「どうかした?」


誰もいない休憩室。


彼女の問いかけは静かに響く。




沈黙



どれくらい黙っていただろうか。


不意に匂いが鼻腔をくすぐる。


下を向いている自分の目の前に、伸びてくる腕。


いきなりの窮屈さと重みに、


僕は自分が後ろから抱きしめられていることに気付いた。


「なっ!」


「いいから」


彼女は呟く。




沈黙




「落ち着いた?」

「え?」

「心がざわついてたから」


ざわついてる?。


「わかるんだ。そういうの」


言いたいことがいっぱいあった。


でも言葉にならなかった。


こらえたものは、静かに頬をつたい流れてくる。


嗚咽とともに溢れてくる。


「よしよし」


初めて声を出して泣いた。


自分には無縁だと思っていた。


自分のせいで大事になってしまったこと。


それを素直に謝れない自分。


母への罪悪感。


はめられたことに対する憎しみ。


それら全てが、翔子の腕の中で流れていくようだった。


「よしよし」


彼女の手の中で僕は数日ぶりの眠りに落ちたのでした。

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