第30話

ゲームに見る主人公の哲学 30


「橘、本当か」


ジャスティスが問いかけてくる。


「いや。あの」


一条の不意打ちに頭が追いつかない。


「橘くんを責めないであげてください」


さらなる追い打ちが襲いかかる。


頭の中が軽いパニックを起こす。なぜ。なぜこうなったのか。


「橘!」


先生の声が大きくなる。以前、中庭で心配した声質ではない。


これは怒りを含んだ感情を乗せた声質だ。


ゲームでも主人公がだまされるケースはよく描かれる。


そんな時はお助けキャラみたいなのが現れて真実を証言してくれる。


お助けキャラだと思っていた先生は、僕に敵意を向けている。


「橘くんは悪くないんです。僕がトイレに呼び出されて行ったらこういう目にあっただけで」


「呼び出して殴ったのか!」


先生は立ち上がってこちらをにらみつけている。


言葉が出ず、その後は一方的な説教の時間が訪れる。




職員室から出る。


怒りがこみ上げてくる。


生徒が同級生に手をあげた。この事実は保護者に報告しなければいけない事例らしい。


呼ばれたのは一条の母親と僕の母親。


一方的だった。


覚えているのは、


「どんな教育をしているのか」


「どんな育て方をしてたんだ」


という罵倒の言葉。そして、必死で頭を下げる母の顔。


なぜこんなことになっているのか。


どこか他人事のように聞いている自分がいたのだった。

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