第29話
ジャスティスに促され、
2人で応接間のソファーに座る。
ソファーは沈み込み、僕の身体を飲み込んでいく。
体勢を立て直したところで、
ジャスティスが口を開く。
「今後は2人にクラスの決まりごとを作ったり、それをみんなに伝えていってもらう」
クラス委員としてのあるべき姿を語り出した。
意外だ。
それはジャスティスの言葉に対して向けられたものではなく、
一条の聞く姿勢である。
彼は僕がソファーに飲み込まれそうになっている時から、
まっすぐにジャスティスの目を見つめていた。
ジャスティスの会話に対しては、的確なあいづちを打ち、
「そうなんですね!」
と大人顔負けの同意の表情を見せている。
父の後輩と名乗る男が玄関まで挨拶に来た時も、こんな感じだった気がする。
ジャスティスはそれに対して気持ちよくなったのか身を乗り出して話している。
一条も身を乗り出し、お互いが同調しているかの錯覚を覚えた。
「聞いてるのか。橘」
ジャスティスの言葉に自分があっけにとられていることに気づく。
「聞いてます」
聞いているとは言ったが、どこまで話しているのか答えるのは正直自信がなかった。
「クラスのみんなが休んだら、どうやって学級新聞を届けるかっていう話だよ。橘くん」
『くん』に含みがあるのが気になったが、
一条が当たり前のように話し始める。
「そうだ。よく聞いているな、一条」
ジャスティスの心は完全に彼につかまれているのかもしれない。
トイレで自分を攻撃してきた同級生。
それが今、先生を味方につけ始めている。
「でもよかった」
一連の説明を終えてジャスティスがさらに語り出す。
「中庭で掃除していた時、一条が橘に絡んでいる印象があったからな。2人は本当は仲がいいのか?」
「はい」
時が止まる。
仲がいいのかどうか。それはトイレでの出来事が物語っている。
それなのに一条から出るYESの意思表示。彼はウソをついている。
「ただ、、」
「どうした、一条」
ウソつきが右腕をジャスティスの目の前、胸の位置まで持っていく。
『赤く腫れているじゃないか!。どうしたんだ!」
「橘くんにやられました」
「なに!。本当か!橘!」
急に慌ただしくなる。僕が反論をする間も無く、
最初に感じたソファーで身体が沈んでいく感覚を、ただ再び味わっていた。
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