第27話

「聞いてんのかよ!」


一条の声が大きい。いや、近い。


胸ぐらを掴まれてから、彼の顔はわずか数センチというところまで近づいていた。


こんなに顔を近づけて大きな声をあげられたのは生まれて初めてだった。


迫力がある。


そんな事を思っていた。


「お前!」


彼の右手が弓を引く手のように下がっていく。


これは、


ゲームでの攻撃モーション!


いつものコマンドが頭の中で入力される。


↓↘︎→ パンチ


距離をとってカウンター気味に、鉄鋼拳。通称右ストレートが入るはずだ!


ゲームと同じ順序でやれば。


格闘ゲームの主人公 カズの動きを思い出せ!


後ろに下がって、カウンター気味に後ろ、後ろ・・・。


背後はトイレの壁。


距離をとるスペースがない。


しまった!


一条の右手はそのまま僕の左頬を貫いた。


正確に言うと、


僕の左頬わずか数ミリ。


僕のバックステップを阻んだ臭気の壁に彼の右ストレートは突き刺さっていた。


「いたっ!」


一条は自らが出した右手を押さえて痛がっている。


その瞬間、


僕はトイレから飛び出したのでした。

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