第23話

図書館での翔子の指導を思い出す。


「時間制限?」

「そう。あいさつには時間制限があるの」

「おはようは朝だけ、こんにちははお昼、こんばんはは夕方から夜にかけて」

確かに。

「そんな風に思ったことなかったです」

「そうだよね。でも、全く知らない人にその時、その時間、その言葉を言ったら知り合いかのようにあいさつが返ってくるんだよ。それってすごいと思わない!」

彼女は舞台の女優のように、熱弁している。


「つまり、神様はみんなが友達になれるチャンスを毎日決まった時間に与えているってわけ」


彼女の言葉を聞いてから、今まで以上に違和感なく挨拶ができるようになった。


教室に入るときももちろん、

「おはよう!」

と声を出す。水をうった静けさのあと、

「おはよう」

言葉が返ってくる。相沢さんだ。彼女は率先して話しかけてくれる。

中庭掃除を一緒にしたというのもあるが、「友達がいない」という僕の一面を気遣ってくれてるようだった。


彼女との他愛もない会話。そのたびに一条の視線を感じる。例の3人組だ。

再び翔子の言葉を思い出す。



「楽しみだね!」

「何がです?」

驚いて聞き返す。

「ライバルだよ!」

「ライバル・・・」

言葉に詰まって考える。ライバルって楽しいのかどうかを。

「そうそう。はじめ君、知らないの?。漫画では強敵って書いて「とも」って読むこともあるぐらいの存在なんだよ」

「それ、漫画の話ですよね」

彼女が言うことは正しいことが多いが、さすがに漫画と一緒にされるのは困る。

「一緒だよ。漫画も現実も」

急に真剣な表情になる。

「漫画のキャラクターもなにか問題が起こって解決してるでしょ」

「はい。でもそれと現実となんの関係が」

「現実の世界も一緒。テーマが違っても問題に立ち向かって解決していく」

言われてみればそうかも。

「はじめ君は分かるはずだよ。先週冒険したんだから」

彼女の言葉は不思議だ。話の流れは無茶苦茶なのに納得させられる変な説得力がある。

「でも、ライバルを楽しむってどういうことですか?」

「今後も相沢さんと友達関係を結んでいたら、何をしてくると思う?」

腕を組んで想像してみる。

「嫌がらせを受ける」

「ピンポーン」

正解を答えた回答者のような扱いを受ける。

「ピンポンじゃなくて!」

「嫌がらせを受けたら嫌になっちゃうでしょ」

「はい」

「なら、嫌がらせを楽しむ。これが次のテーマかな」

彼女は腕を組んでただただ笑っていたのでした。

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