第21話
「それじゃ、まずお母さんからかな」
彼女がノートの「母」の部分をシャープペンシルで指しながら語りかけてくる。
「はじめ君はお母さん好き?」
「嫌いじゃないけど」
なんだろう。心の中にお母さんが好きという言葉を言えない自分がいる。
「思春期だもんね。好きになれないこともあるかもね」
「はい」
「私も中1の時はよくケンカしたよ」
意外だった。彼女の事をよく知っているわけじゃない。でも、図書館で休憩室を選ぶとか常識的な面があるので、同じ子どもというよりは大人という印象があった。
「どんなケンカだったんですか?」
「あら~聞きたい?」
少しバツの悪そうな顔をしたが、頭をかきながら彼女は話し始める。
「私のお母さんは、お母さんが決めた事をやってくれる子どもが好きな人なの」
僕と同じだ。
「最初はそれでいいと思ってた。でも年齢を重ねると、自分にも選択肢ができた。友達と一緒に帰るであったり、◯◯くんとは付き合っちゃいけませんとか」
彼女はこちらに目を向けて、
「窮屈だった」
「それから?。どうなったの」
思わず身を乗り出して聞いていた。今の自分の経験を過去に経験している彼女に、今の僕の答えを求めて。
「全部伝えた」
ごくりと喉が音を出すのが分かる。今の自分があのお母さんに全部伝えたらどうなるんだろう。想像しただけで何が起こるか分からない
「分かってくれた。時間はかかったけどね」
「へぇ~」
驚きだった。彼女が自分と同じような経験をしているのも驚いたし、それに立ち向かって今の自分になっているのだと。
「まぁ、これは私のやり方だったし。はじめ君のお母さんがどんな人なのかも分からない。でも・・・」
「でも?」
「理解してくれないことも多かったけど、自分の子どもを大切に思っていないお母さんはいないんだって今はそう思う」
笑顔の練習を見られて気まずくなり、あれからほとんど会話を交わさなくなった母。
母親に立ち向かって、今の自分を手に入れている翔子。
彼女の過去が今の自分に重なるのなら、僕は・・・。
橘はじめの心に、新たな目標が生まれたのでした。
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