第20話

 

彼女はノートにシャープペンシルで大きく絵を描いていく。

大きめな輪郭・・・かな。ノートのスペースをフルに使って描かれていく。

「あ、ごめん。間違えた」

「え?」

彼女は気にせず次のページに進んでいく。

前かがみになり真剣なまなざしでノートに向かって取り組んでいる。

「(何を間違えたんだろう)」

一週間前に現れた謎の女性。でも、自分の行動に光を与えてくれた女性

彼女が何を描いて、何を教えてくれるのか。僕にとっては楽しみでもある。


「できた!」


ノートをのぞきこんでみる。

図形とともに描かれていたのは、人物の相関図のようだった。


「橘はじめ」


を中心として、さまざまな線が描かれている。

そこには、母から相沢つぐみ、ジャスティス。そして、この間の3人組一条達の名前もあった。


母の線には「親子」


相沢つぐみの線には「恋?」


一条達「ライバル」


単行本の最初の人物紹介を思わせる構図。


「あ、忘れてた!」


ノートに人物が書き足される。


「謎のお助けキャラ ジャスティス」


「これが今のはじめ君の現状。分かるかな?」

「はい」

ノートをシャープペンシルで指しながら、1つ1つ説明していく。

「友達を作るという目的から、これだけの人間関係が生まれました」

「はい」

「今後もこういった関係は増えていくと思うし、立ち向かっていく覚悟はある?」

少し考える。

今までは存在しなかった人間関係。

でも今は・・・。

中庭掃除を思い出す。当たり前のように話をして、それを返してくれる友達。

新しい関係を、人間関係を大事にしたい。作っていきたい。覚悟は決まり、翔子を見据える。

「はい!」

「それじゃ、一つずつ関係を改善する方法を説明するね」

「あ、一つだけ抜けてます」

「え?」

彼女のシャープペンシルを持って、ノートに書き加える。

「謎のヒロイン 翔子」

彼女と目が合う。

「そっか、あたしって謎だよね」

翔子は照れくさそうに笑った。

そんな彼女の姿を見てドキドキする自分がいる。

翔子と自分の線に「恋」という言葉を記入できる日は来るのだろうか。

説明しようとしている彼女を見ながら、橘はじめはそんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る