第16話

中庭掃除最終日

「今日でようやく終わりだね!」

相沢さんがほうきを小刻みに動かしながら話しかけてくる。

「そうですね」

いつの間にか同じような手つきでほうきを動かしている自分に気づく。

二人ともこの一週間で掃除のスキルが向上したらしい。そう思うと思わず口から笑みがこぼれる。

「何笑ってるの?」

彼女はそれに気づいたのか首を傾けながらたずねてくる。

「いえ、二人共掃除のスキルが上昇したなって思って」

「スキル。ふふっ、橘くんって面白い言い方するね」

僕の言葉が予想外だったのか、掃除の手を止めて相沢さんは笑っている。

「おかしいですよね。TVゲームが好きなんで」


ザッザッザ


ほうきの音が一人分になってるのに気づく。


「橘くんもゲームやるの?!」


隣から聞こえる大きな声。どうやら相沢さんの顔はいつの間にか紅潮していた

「相沢さんもやるんですか?」

「うん!。だからかぁ~」

彼女は目をつむりながらうんうんと頷いている。

「何がですか?」

「橘くんが中庭掃除してたとき、ほうきを両手で持ち上げてポーズをとってたでしょ」


あ、やっぱり覚えられてた。

自分の過去のあやまちが記憶に呼び起こされる。


「あのとき、どこかで見たシーンだなって思ったの。やっぱりヘラキスの必殺技だよね!」

「ヘラキス分かるの?!」

「分かるわよ。有名なゲームじゃない!」


主人公ヘラキスが活躍する「ヘラキスナイト」という作品。

生まれた環境によって悩みを抱える主人公がたくさんの敵と戦って次々と勝利をおさめていくゲーム。

もちろん、プレイヤーの手によって勝利は導かれるのだが、それぞれの章にテーマがある。


「愛」

「友情」

「努力」

「妬み」

「希望」

5つの出会いによって運命に立ち向かい英雄になっていく物語

ヘラキスは橘はじめの一番の目標であり、最もなりたいと思える存在だった。


「まさかヘラキスサンダーを学校で見れるとは思わなかったけどね」

彼女はほうきを天にかざしながら、僕の顔を覗き込む。

恥ずかしい、顔が紅潮している。

「恥ずかしがることはないよ。ゲームをやった誰もが憧れると思う。宿敵を倒すときの必殺技」

「ですよね!」

「あと、それ!」

「え?」

「敬語」

彼女は人差し指を僕に向けて「友達なんだから、ため口でいいよ」


タメグチってどうやるんだろう


「ほら!」

「あ、おう」

「おうって何よ。自然でいいよ」

「う、うん」

「そう、その調子!」

当たり前のように会話をし、あっという間に時間がたっていく。

友達作りを始めて約一週間。ようやく橘はじめに友達が出来たのだった。

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