第13話

ゲームに見る主人公の哲学 13


身体が固まる


突然現れた相沢さん。なぜ彼女がここに。

「橘君。何してるの?」

不思議そうな表情で、こちらを見つめている。


「ほうきを両手で掲げて稲妻を呼ぼうとしているんです」


って言えない!


ゲームのキャラ「ヘラキス」の必殺技の真似を中学校の放課後、中庭で行っていたなんて・・・。


言えない!!




しばらくの沈黙




僕は静かにほうきを下に向け、何事もなかったように地面を掃き始める。


ザッザッザ


一定のリズムを奏でながら、ほこりを再び集めていく。

「橘くん?。もしかして」

やばい。

絶対おかしな人だと思われている。友達ができる可能性のある人を見つけたのに。

こんな事でダメになるなんて。。

「山下先生に言われたの?」

え?。肩透かしを食らった感覚。

「何を?」

「中庭の掃除」

あ、そっか。相沢さんには伝えてなかった。

「うん。まぁ。」

「私のせい・・・だよね」

彼女は胸に手を当てて何かを考えるようにうつむいている。

「そんなことないよ。花瓶を割る原因を作ったのは僕だし」


本当にそう思っていた。

橘はじめには友人と呼べる人がいなかった。

だからこそ、自分が間違えたら自分で正すしかないことを知っている。

小学校の時、母親に言われ続けた「自分の成績は自分のせい」という言葉が、彼の心にいつも刻まれている。TVゲームもそう。主人公は常に自分の責任で選択し、行動を行い結果を出す。結果を出せなければ、「GAME OVER」というつづりをただ眺めるだけの終わりが待っている。


そんな彼は、「ごめんね」彼女が謝る意味もあまり理解ができなかった。

「貸して」

「え?」

彼女が両手を前に出し、こちらに手のひらを差し出す。

「ほ・う・き」

迫力に負けてほうきを手渡す。


ザッザッザ


彼女の手の中でそれは一定のリズムを刻み始めた。


「半分こずつね」


中庭の中央に行き、人差し指を左右に振り回している。

「ここから・・・そこが橘くんがやるとこ。ここからが私」

どうやら各自掃除の範囲を決めるらしい。

「早く、ほうき持ってきて!。早く終わらせないと日が暮れちゃうよ!」

「は、はい!」

完全に彼女のペースになり、あわててもう一本のほうきを持ってくる。

「今回のこと、ありがとうね!」

「え?」

「なんでもない! 早く終わらせちゃお!」

なぜか頬を赤らめている彼女を見つめながら、僕は掃除を再開したのでした。

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