第12話

放課後。

橘はじめは中庭にいた。

学校の中央部コンクリートで固められた中央のS字のアーチを描いた道と、その周りが芝生で構成された場所である。中庭と隣接している教室はどこからでも窓から中庭の様子を伺うことができ、天気のいい日は設置してある青いベンチで昼食を食べる生徒も見られる。


「中庭の掃除1週間」


新たに与えられた橘はじめのミッション。


何から始めよう?。


橘はじめは掃除に詳しくなかった。家では母親が掃除をしているし、定期的にはじめの部屋もいつの間にか掃除されている。学校の掃除時間という制度がなければ、自分で掃除するという文化さえ、自分の中では生まれなかっただろう。


掃き掃除、拭き掃除。それから・・・。思い浮かばない。


とりあえず掃き掃除かな。

コンクリートで構成されている道をきれいにする事から始めることにする。


ザッザッザ。


小刻みなリズムで少しずつ、道のほこりを隅へ導いていく。

ほうきを動かしながら、彼は翔子の事を考えていた。


今回与えられたミッション


「笑顔」

「あいさつ」

「立ち向かう」


言われた通りに行動すると、今日はいろんな展開があった。

自分が起こした行動によって、周りがリアクションをし、世界が変わっていく。


そう、自分が好きなゲームの世界の展開に似ているのだ。


当たり前に存在している主人公。そこに好意的に接してきてくれる村人たち。

「おーい。モンスターがいて通れないんだ」

たまに起こる問題を、

「やっぱりお前ならやってくれると思ってたぜ」

当たり前に解決してしまう主人公。


ゲームをやっている時には何も思わなかったが、今日のようにいろんな出来事が起こると、ゲームの主人公は解決方法を常に知っているような気がする。


実際経験してみると、今日の僕の行動が最善の展開だったとは思えない。お助けキャラみたいなものをジャスティスとのやり取り中に期待したが、誰も来なかった。


失敗もあった。


笑顔の練習を母親に目撃されたり、

相沢さんの花瓶を割ってしまったり、

ジャスティスとの交渉も、もっとうまくできたのかもしれない。


もっとスマートに解決するのが主人公。いや、ヒーローだ!


ゲームと自分の違いについて考える。

自分になくて主人公にあるもの。





そうだ! スキルだ!!





主人公はレベルアップするたびに新しい技を習得していく。

僕もレベルアップしていけば、今日のような展開になったとしても動揺せずに涼しい顔で解決できるのかもしれない!


僕の憧れの主人公、ヘラキスみたいに!


ヘラキスの決めポーズ。両手で剣を上に掲げて稲妻を呼ぶポーズをとる。


「橘くん??」

気が付くと目の前には相沢さんが立っていた。

「何をしているの?」

彼女が疑問に思うのも無理はない。


そこには、両手でほうきを上に掲げて稲妻を呼ぼうとしている、橘はじめの姿しかなかったのだから。



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