第10話
ガラガラっ
地獄への門が勢いよく開かれる。
「入って来いよ」
職員室への扉が開かれ、敵のアジトに招かれる。
山下先生の後についていき、職員室横の個室に招かれる。
どうやら、普段人に聞かれないための話をするための部屋らしかった。
「どうかしたのか?」
「・・・」
言葉をふりしぼれ。
心の中で自分に声をかけるが、緊張で喉が乾く。
「あっ」
声が上ずった。
「どうしたんだよ」
山下先生は少し笑顔になって、
「とりあえず落ち着けよ。心配ないから。」
「は、はい」
心臓が落ち着いていくのが分かる。
改めて見るとなかなかの貫禄がある。
柔道をやっていた恵まれていた体格、今時めずらしい角刈りに近い短髪
入学式の際、上級生が言っていたあだ名を思い出す。
「ジャスティス」
『山下正』という名前に裏付けられた正義感を模した言葉である。
以前注意された時は、そこまで意識していなかったが目の前でマジマジと見つめられるとやはり、身体が強張ってしまう。
「落ち着いたか?」
「はい」
「職員室に来たのは何か用があったからなのか?」
気遣いだろう。YESとNO形式で質問をしてくれる。
「はい」
「それは俺に用事があることなのか?」
「はい」
「何かをしてしまったとかの報告か?」
「はい」
ピクっ。
山下の眉毛が少し動いた。何かあったということを身体が察知したためだ。
「もしかして・・・もしかして怒られるようなことか?」
「はい」
ふー。
山下先生がため息をつく。
「わかった。怒らないから言ってみろ」
怒らないから言ってみろ
そう言って怒らなかった人間を、僕は知らない。
が、自分の口で説明できるところまで話が進んだ。後は本題に入るだけ。花瓶を割ってしまった相沢さんの顔を思い浮かべながら、口を静かに動かす。
「実は教室の花瓶を・・・」
「花瓶を?」
「割ってしまって」
「そうなのか!」
先生の目が大きく開かれる。
「片づけたのか?」
「はい。ほうきとちりとりで片づけて。」
「怪我は?」
「怪我もないです」
「ならよかった」
ほっと胸をなでおろした様子の山下先生。
どうやら心配してくれたようだ。これはチャンスかもしれない。
「花瓶を割ってしまってごめんなさい」
優しい雰囲気を察知し、頭を思い切り下げながら、謝罪の言葉を伝える!
沈黙
頭を下げてから数秒が経過。
「(あれ?)」
何も返答がない。顔を起こしたらジャスティスの鉄槌があるのかも。。おそるおそる頭を上げる。
が、そこには腕を組んで何かを考えるジャスティスの姿があったのだった。
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