第7話
「いってきます!」
笑顔の一件で不思議そうにしている母に背を向けて、僕は学校へ歩き始める。
足取りが重い。翔子の提案のせいだ。
再び図書館でのやり取りを思い出す。
「アイサツ?」
「そう、あいさつ!」
彼女の目が輝いている。
「友達作ろうプロジェクト、笑顔に続く第二弾よ!」
先程覚えた、
「にこっ」
の愛想笑いで彼女の問いかけをスルーする。
「あぁ〜。信じてないでしょ」
「いや、そういうわけではないんですけど」
あいさつについて考えてみる。
普段から率先してやる印象はないが人にあいさつされた時は、あいさつを返している。
それは当たり前のことで、幼い頃からやってきた。
当たり前にやっているからこそ、それだけで友達ができるのならば、僕は今ここにはいない。
「普段あいさつしてる?」
「してますよ」
「相手は?」
「母さんとか、あと学校とかで挨拶されたら」
「学校でも挨拶してるんだ!」
「それはもちろん。挨拶されたら返します」
『なら今回のプロジェクトは楽勝だよ!。学校に入ったらみんなに挨拶すればいいだけなんだから!」
思考が止まる
「みんなに、、ですか?」
「そう!。みんな!」
「みんな僕のこと知らないですよ。僕、友達いないですし」
「バカだな〜。みんな知らないから、あいさつして知ってもらうんじゃない」
あ、そうか。
「でも僕が挨拶しても返してもらえないですよ」
「なんで?」
彼女は少し首を傾けながら、疑問を前面に出してくる。
「なんでって」
「学校で挨拶する時もあるんでしょ」
「そうです」
「でも友達いないんでしょ」
「はい」
「なのに挨拶されたら返すんでしょ」
あ、なるほど。
「あいさつしてくれた人が友達じゃないのに、はじめ君はあいさつを返してるじゃない」
本当だ。
目から鱗だった。
道を歩く人でもなんでも、友達じゃなくても人は挨拶をしている。
「ドゥーユーアンダースタンド?」
「い、いえす」
やっと理解したという顔で、翔子先生の講義は終了した。
学校に到着。
ここからはあいさつゾーンだ。
今回のミッションを思い出す。
「学校の校門をくぐったら教室にたどり着くまで、みんなに挨拶する」
ミッションスタート!
『おはよう』
「おはようございます!」
校門の先生、撃破!
「おはようございます!」
「あ、おはよ」
「おはよう」
前方にいたショートカットとロングの女子2人、撃破!
「今の子、知ってる?」
「いや、知らなーい」
「っていうかさぁ、なんであの子全力で走ってるんだろうね」
「さぁ?」
ミッション内容は、
「教室にたどり着くまで、みんなにあいさつをする」
そう、このゲームには攻略法があったのだ。
人に話しかけるの恥ずかしさが1番の障害なのだが、教室にたどり着くまでの道のりを短縮。
つまり、全力で教室まで走りぬければ最小限の人数にあいさつをするだけで済む。恥ずかしさも、、こちらの被害も最小限で済む。
教室まであと少し、階段を上がり、
「おはようございます!」
「お、ビックリした。おはよう!」
上級生らしき、男子生徒を撃破!
左手の3つ先の教室。ゴールが見えてきた。
「ドクドクドク」
心臓が今までで1番の勢いで泣いている。
1つめ、
2つめ、
3つ!!
「よし!」
ガラガラガラ!!
勢いよく教室の扉を開けると、
「きゃあ!」
叫び声と、
ガシャーン!!
と何かが割れる音。
目の前には尻もちをついた女子生徒が、驚いた表情で僕を見ている。
横には花瓶だった。のだろうか、形を持たなくなった陶器の破片が散らばっていた。
「おはようございます」
事態を飲み込めないまま、僕はミッションを最優先にこなしたのだった。
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