第6話

月曜日

朝を迎えた橘はじめは、自分の部屋のドアに取り付けられた全身鏡と向かい合う。

「にこっ!」

鏡の中には、口角が引きつってピクピク動いている少年の姿があった。

こんな事でうまくいくんだろうか?

彼女の言葉を思い出す。

「友達を作りたいんなら、まずは笑顔!」

「笑顔?」

「そう。普段から笑ってる?」

「えーっと」

自分が普段笑ってるのかどうか、あまり思い出せない

「何をしてると楽しいって思う?」

なんだろう。少し考えてから、

「ゲーム」

という単語が頭に浮かび答えていた。

「おっ!いいじゃない!。それなら、ゲームをやってて楽しかったことを思い浮かべながら、鏡の前で練習するの」

「練習?」

「うん、練習!。慣れると自然に笑顔が出るようになるよ」

そう言うと彼女は両手の人差し指を自分のえくぼに押し当て、

「にこっ!」




「ちょっと、何か言いなさいよ。恥ずかしいじゃない」

彼女の頬が少し赤くなった。

「一緒にやるわよ。せーっの!」

「にこっ!」

「笑顔になってない。ちゃんと人差し指を当てて自分が笑顔になってるか確認する」

「せーっの!」



「にこっ!」

思い出しながらの笑顔の練習、「にこっ!」のタイミングで鏡に現れたのは、



母だった。



部屋の扉は開け放たれ、いつの間にか家庭の門番が自分を見ていた。

「どうしたの?。何かあった?」

門番が話しかけてくる。


たたかう

にげる


「にげる」を選択

ここは自分の部屋なのでにげられません。


「たたかう」を選択


「どうしたの?」

「おはよう」

「お、おはよう」

「ご飯出来てるから」

「うん」

門番は去っていった。


もともと母とはそんなに仲が良かったわけではない。

でも、ここまでギクシャクした会話は初めてだった。

その後の朝ごはんも終始、無言。

時折、こちらを見ては目をそらす。

「さっきのにこっ!はなんだったの?」

「あなたは一体何を目指してるの?」

そんな声が聞こえるはずがないのに、頭の中で聞こえてくる。

動揺からか味のしなくなったご飯を口に入れながら、

「にこっ!」

を今後どこでやるのか?。橘はじめは考えるのだった。

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