第5話

「まず確認。日曜日の図書館って来たことある?」

「あまりないです」

図書館に来たとしても月1回。調べ物がある日ぐらいだ。

「休日の日曜日にわざわざ早い時間に来る人達ってどんな人だと思う?」

「そうですね。。いつも早起きしてるとか」

「うん、そう。そういう習慣になっている人ね」

当たった。少し嬉しい気持ちを抑えながら、彼女の推理を再び傾聴する。

「休日に早起きして図書館に来るっていう人はどんな人が多いのかな?」

考えてみる。彼女の真似をして、胸の前で腕を組み、親指と人差し指を折り曲げながら顎を触る。

「向上心がある人?」

「そう。だから子供で向上心があるっていう人は少ない。小さい子供が保護者同伴で来るケースは結構あるけどね」

図書館の席で座っていた時の光景を思い出してみる。

「たしかに子供の姿はほとんどなかったような気がする」

「朝いちばんってなるとなおさらね」

「どちらかと言うとおじいちゃん、おばあちゃんが多いイメージだったような」

「そう!。高齢者の人達は早く目が覚めるから、朝に図書館に行くのが習慣になっている人もいる」

「なるほど。でも、それで何がわかるんですか?」

「つまり、日曜日の図書館は基本的に面子が決まっているってこと」

「面子?」

「図書館に来る人達」

「そうか。みんな顔見知りなのに知らない人が来たら気になるかも」

「まぁ、いつも来てる人だから分かることなんだけどね」

翔子はうんうんとうなづいている。

「だから気になったの。休日に図書館に来る新顔の男の子の目的が!」

彼女は目を輝かせながら話を続けている。

「だから、目で追って確認してたの。犯行には動機が必要だからね」

「動機って、容疑者みたいな言い方だね」

苦笑している僕に、

「容疑者よ、橘はじめ容疑者」

彼女はまっすぐな瞳と笑みでこちらを見つめてくる。

手をつないで休憩室まで連れてこられた事を思い出して、再び心臓の鼓動が早くなる。

「だ、だからって僕が友達を作りたいっていう事にはならないんじゃないですか」

本当の容疑者みたいな喋り方になってしまった。

「ノッてきたね~」

彼女はこちらの気持ちも知らずに続ける。

「そう。で、容疑者の行動を探るために見てたら出てきたってわけ」

出てきた??。不思議そうな顔で彼女を見つめると、

「これ」

彼女の指差す方向には、机の上に置かれた

「友達の作り方」

という本。

「物的証拠ってやつ。真面目なんだろうね。姿勢正して本を立てて読むから背表紙が丸見えでした」

そう考えると、自分が気付かないうちに友達ほしいアピールをしていたことになる。

先ほどとは別の意味で鼓動が早くなった。顔が熱くなっていくのを感じる。

「恥ずかしいことしてたんですね」

自分が真っ赤な顔になっていると思い、彼女の顔を見ることができなくなってきた。

「だから、友達になってあげる。友達を作る動機も気になるしね」

翔子が手を差し出してくる。

「え?」

「ほら。手を出して」

彼女の手の方へ、自分の手を持っていく。

「友達の握手」

「は、恥ずかしいです」

「友達なんだから気にしない。それとも犯行を認めたから逮捕、ぐらいでもいいかもね」

彼女がおどけて笑う。そんな彼女を見て、僕にも自然と笑みがこぼれた。

二人は握手を交わし、橘はじめの頭の中にはゲームのキャラクターが仲間になった時のBGMが流れたのだった

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