第4話
「ほしいんでしょ?」
目の前の女性が問いかけてくる。髪は肩まで伸びていて、細い眉にパッチリとした目。鼻が少し高く、すらっとした印象。口は笑みで結ばれこちらに向けられている。
橘はじめは母親以外の女性と話すことがほとんどなかった。
「ト・モ・ダ・チ」
問いかけは続いているが、彼ははどうしたらいいか分からない。
「とりあえずこっち来て!」
彼女はそう言うと、はじめの手を引っ張ってあるき出す。
どこへ行くのだろう?。
彼女が美人なせいか、彼の心臓は早くなっていた。
「休憩室」
と書かれている部屋までやってきた。
図書館には何回か来ているが、こういった部屋があることを初めて知った。
大きめの部屋で長い机にパイプ椅子がいくつか設置されている簡素な作りだった。
つないでいた手を離し、彼女は部屋の前方に設置してあるドリンクスペースに向かう。
「なんか飲む?って言ってもタダで出るのは水かお湯だけだけど」
おどけた表情で彼女は笑う。
「あ、はい。水で大丈夫です」
「了解」
手慣れた手つきで紙コップを取り、水を入れていく。
「適当に座ったら」
「はい」
休憩室には僕と彼女しかいなかった。図書館の休憩室というのはあまりメジャーなスポットではないらしい。
目の前のパイプ椅子に座って、手に持っていた本を机に置く。
「不思議に思ってるでしょ?」
ドキっとした。
「わ、わかります?」
「そりゃ、そうよ。少し怯えてる感じがするもの。気さくに話しかけたつもりだったんだけど」
「あ、はい。気さくで明るい感じでした。ただ、なんで僕の考えていたことがわかったのかなって」
こういう出来事をテレビゲームではイベントという。イベントにも事前に予告されたものから、突発的なイベントもある。今回は間違いなく後者だ。知り合いでもないなのに、なんで気さくに声を・・・あ。
「もしかしてどこかでお会いしました?」
「ううん。はじめてだよ」
「ええ!」
突発的なイベント。この解決の糸口が一瞬でなくなったことに軽いパニックが起こる。
僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は隣に座りこちらを下からのぞき込むように話し始める。
「とりあえず、自己紹介からいくね。私は翔子。推理が得意な14歳、今年で中学3年生。そっちは?」
「えーっと。橘はじめ、13歳。中学校1年生です」
「私の方がお姉さんだね」
「そ、そうですね」
彼女は笑っているが、僕はどうしていいか分からない。でも、彼女の言葉から少し解決の糸口が掴めそうな気がした。
「推理が得意なんですか?」
「うん!」
「だから、僕が友達を作りたいというのも?」
「推理で分かった!」
「すごいですね」
ゲームの世界みたいだ。知らない人の経歴を洞察力で当てていく推理アドベンチャー。探偵の一言一言に一喜一憂する容疑者の反応を見て、憧れたことがある。
「探偵なんですか?。どこで分かったんですか?」
「それはね~」
彼女は人指と親指を顎に当て、真相を語りだしたのだった。
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